第5話 テロリスト教団

 志賀光樹3等陸曹は実を言うと転属をしなくてはいけない話が出てきていた当初から中央即応連隊に希望届けを出していた。別に第一空挺団にはこれと言った不満はないが陸上自衛隊で体得したらステータス的にも最高峰の空挺レンジャー課程も終了していつも通りの落下傘訓練や降下後の戦闘行動、そしてヘリボーンと呼ばれるヘリコプターから降りてからの作戦行動に移る訓練などを淡々とこなしていたが正直、空挺団なら空挺を基幹とした訓練というくだり続きでマンネリしていたのもあった。

 特殊作戦群も一時期は考えていたが1年間に及ぶ素養訓練にも耐えらるかどうかも分からないし水陸機動団レンジャー小隊も考えて見ても島嶼防衛とうしょぼうえいや離島作戦のイメージしかなくてパッとしないようだった。しかし中央即応連隊なら特殊作戦群みたいな対テロ訓練も追加されて大変そうだが何気にやりがいがありそうにも感じた。

 それからちょうど対テロに応用が効く隊員が欲しいと中央即応連隊が転属希望者の募集をかけていたため、わずかで平均より早めの転属が出来ることとなった。

 そして転属の時期が来て志賀3曹は本格的に希望通りに中央即応連隊への移っていく。

 

日本 某所奥地

 つい最近、元総理大臣だった伊部三志郎いべ さんしろう氏が元自衛官の宗教二世に自作銃で射殺される事件が起きて以降、政権と癒着していたカルト教団の存在が明るみに出ていたが、他にもそれらに付随する教団も再来することも懸念されていた。

 今まで政権と癒着していた国際統一家庭教会の霊感商法や性感施術商法、合同結婚式などが問題となっていたものの、地下鉄で毒ガスによる無差別テロを起こした淫夢天空教ほど過激ではないと思われている。しかし、最近では終末論を掲げて社会情勢不安を煽ってプレッパーなどの信者を獲得して勢力拡大を図っている団体が姿を現すようになった。そのカルト宗教団体は世界終末救済会と呼ばれるものだった。

 元々は災害などから自身の身を守ったり家族を守るための備えをするためにキャンプ同好会やサバイバル教室を開いて会員を集めることから始まったが次第に宗教的な面が露見されるようになり、現在に至る。

 教祖はダニー・赤腹あかはらと呼ばれる元アメリカ陸軍兵士と元東欧の外人部隊という経歴のある男で日系アメリカ人だった。信者や構成員は数多くの戦績を称えてトール様と称えている。

 トールとは北欧神話に出てくる最強の軍神という意味から取ったものだった。

 

 世界終末救済会 

 教団に新たに入ってきた信者は終末論について精神教育(洗脳)が行われた後、完全防音の道場へと連れて行かれて格闘技の空動作を元にした演舞に近い運動をして本格的な護身術や山間部へ行ってサバイバル訓練や野営訓練(キャンプ)などをする。

 まず、新規に入会してきた者の手続きなどを済ませたら入会者全員を大会議室へ集めた。

 傍目から見ればオンラインサロンやマルチ商法のセミナーや学習会のようなものをイメージ出来る。

 入会者達は緊張している者や戸惑っている者、中には期待の気持ちで満ち溢れている者が五分五分でいた。それぞれの雰囲気が漂ってくる中で外側から「お疲れ様です!トール様!」という覇気のある声が聞こえた。

 信者からトール様と崇められるダニー・赤蝮が現れる。

 新規入会者は渡されたパンフレットやチラシで見るトール様ことダニー・赤蝮本人が来た事で唖然としていた。

 「皆さん。お忙しく大変な日々をお過ごしの中、ご入会ありがとうございます。」

赤腹は丁寧に挨拶する。

 「こういったのは初めてで緊張するでしょう。みんなリラックスして落ち着いて。これからは終末に立ち向かう仲間ですし気楽に行きましょう。」

笑顔でそう言って新規入会者に気さくさを見せた。

 新規入会者は平均的に20代から30代の若い人が多く大半は世の中に不満を持っていたり、社会的な不安、将来の先が見えない不安を抱えている者が大半だった。以前から入信している者も同じだが一通り修練を終わった者で新規入会者をサポートする事となっている。

 「経済悪化や犯罪多発、今まで平和だった日常から戦争へと変わる恐怖、災害の不安、個人の不安や不満、人それぞれ色々あるでしょう?私も軍隊にいる時は同じでした。私が感じていた不安は終末世界になるのではないかと言う不安でした。私たちが抱えている不安や不満は終末世界に直結するのです。皆さんもこうして対面できたのも何かのご縁です。是非とも共に切磋琢磨して終末世界に立ち向かいましょう。」

赤腹は長い説明して迷彩柄の野戦服を着た男に上腕を軽くタッチしてその場から去った。

 「はい!注目〜。皆さん!こんにちは!リ・ドンハと申します〜。あ、僕日本語上手ですか?」

迷彩柄の野戦服を着た男は半分おふざけで話す。

 「はい!上手です。」

新規入会者の1人が言ってそれに釣られて全員が同じことを声を張って言った。

 「これから案内してくれる古株がいるから彼らの言うとおりに動いてください。」

リ・ドンハを名乗る男は穏やかな口調でそう言って古株の信者達の前を通って去っていく。

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