第六章 ・・・で?

「・・・で?」

「えっ・・・?」


ママの問いかけに、パパはとぼけた表情で聞き返した。

クレジットの明細をつきつけるママの顔は、少しキツイ感じがした。


「確かに、私の誕生日のプレゼントはもの凄く嬉しかったし、

久しぶりの豪華なものだったわ」


細い腕に巻かれたシルバーのブレスレットと耳に輝くイヤリングは、お揃いの煌めきを見せている。

誕生日のお礼を兼ねて、父の日のお祝いに予約したレストランに繰り出す直前に郵便ポストに入っていた明細を開けて、ママが問い詰めているところだった。


「この金額の後にある、結構な数字は私のものだけじゃ無いですよね?」

有無を言わさぬ口調に、パパは怯えた表情で口をパクパクさせている。


「あれほど娘、夏美に無駄遣いはしないって、約束したのに・・・」

「待って・・・!」


ママの言葉が終わらぬ内に、アタシはパパをかばう様に立ちふさがった。

これだけは譲ることはできないと思ったからだ。


「だって、パパはママのプレゼント・・・

私のリクエストよりもイヤリングもつけて、余計に買ったのよ・・・」


アタシの必死の訴えにママは、タメ息をついた。

でも、その顔が嬉しそうに微笑んだのをアタシは見逃さなかった。

愛おしそうにブレスレットをなでながら、ママが尋ねた。


「それで・・・夏美が買ってもらったのは、何なの・・・?」

もう、結末は知っているとばかりのドヤ顔だ。


私も負けじと、後ろ手に隠していた右手を差し出した。

キラキラ光るブレスレットはママと同じ、シルバー色だった。


「まぁっ・・・」

ママの大きな目が更に大きくなって、出した声と同時に噴き出した。


アタシの肩を引き寄せると、抱きしめながらクスクス笑っている。

アタシも嬉しくなって、笑い声をあげていた。


パパはホッとした表情で、見つめている。

そして、嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、行こうか・・レストラン・・・」

促す言葉を投げながら、ネクタイを愛おしそうになでてくれている。


アタシの胸はキュンとなった。


あの後。

アウトレットでパパを一時間、待たせている間。


アタシはお買い物をしたの。

こっそり貯めた、お小遣いで。


心配そうに待っていたパパに、そっと包みを差し出した。

そのプレゼントの中身は。


今、パパがつけているネクタイピンだったのでした。


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