第四章 温もり

スカートのプリーツの折れ目が、リズミカルな影をつくっている。

白いシャツの上に大きめのカーディガンが、オフホワイトに淡いシルエットを彩る。


斜めにたすき掛けした白いポーチの細いベルトが、アクセントの線を走らせている。

自分の娘ながら天使のような可愛さに、ウットリしてしまった。


だからアウトレットのゲート前で突然振り返った瞬間、胸がキュンとした。

小悪魔的な笑顔から、白い歯をこぼしている。


私が近づいていくと、腕を組んで待っている。

頬を膨らませた後、可愛い声で小さく叫んだ。


「パパ、遅いっ!」

私が一番弱い表情を熟知している娘の必殺技だ。


昔見ていたヒーロー戦隊ものの、お約束の悪役のように私は簡単に倒されてしまう。

グロッキーな私を支えるように、娘の細い腕が差し込まれる。


「早く行こうよっ・・パパぁ・・・」

鼻にかかった甘い声は、当然のように私の心を溶かしてしまう。


左手をギュッと抱きしめる温もりに、私は言いようのない陶酔感を味わっていた。

さっきまでのふくれっ面と真逆な甘えようは、将来を不安にさせるほどの悪魔的テクニックだ。


「あ、ああ・・・」


これだけしか絞り出せない声で私は答えた。

それでも、最後の力を振り絞って聞いた。


「怒ってないのか・・・?」

「フフッ・・・」


私の言葉など既にデータベースに保存済みだとばかりに、娘はクスリと笑った。

「娘三歳からの下僕」の私は、その天使の微笑みに逆らう術を知らない。


そのまま腕の温もりを感じながら、御姫様の望む店へと向かうのだった。

太陽がお昼を知らせる前の遅いAM時間。


久しぶりの娘とのデートに胸をときめかす中年オジサンであった。

今日もいい天気、である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る