第6話

「ソフィア、募集していたアルバイトは見つかったのかしら?」


 突然話をふられてソフィアはキョトンとしている。


「えっ……と、まだよ。なかなかいい人がいなくて困ってたとこ」


「ひとつ提案があるの。ルミにうちのアルバイトとして働いてもらうのはどうかしら? 仕事はミーシャの行方を探ること」


「そのかわり、みんなでスティーブを助ける手助けをするの」


 ルミはあっけにとられているようだ。


「私が……この会社で……働く?」


「そう、それならお互いに協力出来るんじゃないかしら? ミーシャはスティーブの行方不明に何かしら関係があるはずだし、ミーシャはうちの共同経営者なんだから会社としても調べる必要があるわ。ミーシャとスティーブの捜索を協力して行うには都合が良くないかな?」


「それならサイバー探偵社に名前を変えなきゃな」


 ジェイがおどけて言う。


「どう、ルミ。うちで働いてくれる?」


 ルミの瞳に希望の光が戻ったようだ。


「私も! 皆さんと一緒に働いてみたいです。ぜひやらせて下さい!」


 そう言って、ルミは頭を下げた。


「カーンとソフィアはどう?」


「もちろん、俺は賛成だ」


「言い出したら聞かないんでしょ、賛成よ」


 残されたジェイに皆の視線が集まる。


「おいおい、そんなに簡単に決めちゃうの」


 呆れたと言う感じで両手のひらを広げて見せた。


「ルミ、プログラムは書ける?」


 ヴェロニカがルミの方に向き直って聞いた。


「はい、サイボーグやロボットの制御プログラムを書いてます。これでもエンジニアなんですよ」


「どう、ジェイ?」


 ヴェロニカが眉を上げて言う。


「ちょうど助手が欲しかったとこだし……働いてもらおうか」


 流石のジェイも白旗を上げたようだ。何とかまとまった。ヴェロニカはふーっと息を吐いた。ルミに自分の姿を重ね合わせてしまうとは。


(私どうしちゃったんだろう)


(ともあれ、やるしかないわ。5人のチームで力を合わせてやってみせるわ)


 まずは、2つのチームに別れてそれぞれ行動することになった。


 ①サイバードル調達および送金チーム ジェイとソフィア


 ②スティーブとミーシャの捜索チーム ルミとカーン


 ヴェロニカは全体の指揮をとりながら機動的にどちらかのチームに参加することになった。


 





 翌日。ヴェロニカ、ルミ、カーンの3人は再びミーシャの自宅へ行くことにした。相変わらずミーシャとの連絡はとれないし、足取りもつかめなかった。カーンが運転する車でミーシャの自宅へ向かう。カーンは自動運転に任せず自分で運転するのを好む。もちろん運転アシスト機能があるので格段に安全ではあるのだが、専用の免許と高額な保険が必要だ。


 やがて見慣れた庭と家が見えてきた。昨日、停めてあったミーシャの車がなくなっている。スティーブは車で連れ去られたのだろうか?


「ミーシャさんに最後に会ったのはいつですか?」


 ルミがヴェロニカに尋ねる。


「ルミと最初に会った日よ。朝のミーティングで会ったわ」


「その後、ミーシャさんは?」


「確か、取引先へ行くと言って出掛けたはずだぜ」


 カーンが答えた。


 3人は芝生を横切り玄関へと向かう。ドアをノックしてみるが返事はない。ヴェロニカがゆっくりとドアノブを引っ張ってみる。やはり鍵はかかっていない。


「入ってみよう」


 ドアを開けて家の中に入る。廊下の電気をついて中の様子を探るがシーンとしていて物音ひとつしない。空気がよどんでいて人がいる気配がない。廊下を進みリビングに入る。カーンが注意深く家具を調べるが特に変わったところはないようだ。


「ミーシャさんの家族はどこにいらっしゃるんですか?」


 ルミが尋ねた。


「ご両親は海外にいるって聞いたんだけど、連絡先がわからないの。兄弟はいないわ」


「スティーブがいた部屋はどこだ?」


 一通りリビングを調べ終わるとカーンが聞いた。


「廊下の奥の右側の部屋よ」


 3人はゆっくりと廊下の奥へ進む。スティーブがいた右側の部屋の前まで来た。部屋のドアは閉まっている。カーンがドアに耳を当てる。ルミはヴェロニカを助けた時、すぐにこの家を出たため中は調べなかったと言う。まだ何者かが隠れているかもしれない。


 カーンが慎重にドアを押し開く。がらんとした何もない部屋だ。以前、ルミがこの家を訪れた時もこの部屋には入ったことがなかった。中は相変わらず真っ暗だったため持参した携帯用ライトで部屋の中を照らしてみる。スティーブが縛られていた椅子がそのまま残されている。窓のカーテンを開けると明るい日の光が部屋の中に差し込み良く見えるようになった。使われていなかった部屋のようで、椅子一脚が部屋の中央に置かれているだけで、他に家具はない。窓がある扉の正面の壁以外に窓や扉はなく押し入れなど収納スペースも見当たらない。

 床は木製のフローリングになっており足跡などは残っていないようだった。


「ルミが来たときは、この部屋には誰もいなかったのよね?」


 椅子を調べながらヴェロニカが尋ねる。


「はい、ヴェロニカさんしかいませんでした」


「どうも妙ね。なぜ人目に付きやすい自宅に連れて来たのかしら?」


「私もそれには疑問を感じていました。もっといい場所があるはずです」


 カーンがカバンから小型のハンマーを取り出す。


「ちょっとカーン、どうするの? 家を壊すつもり?」


「どうも床が怪しい。調べるんだ」


 身長2メートルの大男がハンマーを持つと職人さんのようだ。カーンは部屋の端から順番に床を軽く叩き始めた。ゴンゴンと音が響く。音の違いを確かめているようだ。ちょうど部屋の中央部分に差し掛かった時、少し違う音がした。コンコンと軽めの音だ。カーンは床板の継ぎ目に顔を寄せて、指でなぞっている。


「見つけたぞ! 傷がある」


 カバンから工具を取り出し板の継ぎ目に差し込みはがしていく。何枚か板をはがすと四角い扉が現れた。金属製の扉で左の端に上へ持ち上げるための取手がついている。


「開けるぞ、少し離れてろ!」


 カーンが取手を引っ張ると、きしむ音を発しながら扉が開いた。ライトで中を照らしてみる。どうやら垂直に下へ続く通路になっており降りのはしごが取り付けられているようだ。


「ここから地下へ降りられるようだな」


「地下室があるのかしら?」


 ヴェロニカが覗き込みながら言った。


「どうかな? 降りてみないとわからんな。俺が降りてみるから、上で見張っててくれるか?」


「大丈夫? カーン」


「大丈夫だ。任せておけ」


 元軍人だけあって頼りになる男だ。


「気をつけてね、カーン。何かあったら連絡して」


「ああ、行ってくる」


 カーンがはしごを降りていく。上からヴェロニカがライトで照らす。通路はそれ程深くなく、程なく地面についた。床の入口からも姿が良く見えるので安心できた。


「奥に続く通路になっている。先に行ってみる」


 ヴェロニカたちにそう言い残すとカーンの姿は見えなくなった。


「カーン、聞こえる?」


「ああ、聞こえるよ」


 腕に付けた通信端末で呼びかけると返事があった。電波の感度は良好なようだ。


「何か見える?」


「通路は真っ直ぐ東へ伸びている。今、30メートルほど進んだところだ。暗くて先が良く見えない。もう少し進んでみる」


 コツ、コツ、コツとカーンの足音がスピーカー越しに響く。


「前方に扉がある。開けるぞ!」
































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