第16話 決意
あと少しで署名が目標の二百人に到達する。
アプリを閉じ、スマホをしまう。
校舎への一本道に沿う並木は、すっかり秋らしく染まっていた。
ことりが爽やかな気分で歩いていると、前から突然、怒号が聞こえた。
「お帰りください!」
ぎょっとして目をやると、本館入り口あたりになにやら人だかりができている。揉めているようだ。
追い返そうとしているのは先生たち。相手は誰だろう。
生徒ではない。推測するに、保護者でもない。栄翔生の親は、たいてい一つはブランド品を身につけていた。
不審に思いながら、その横を生徒昇降口に向かって通りすぎる。
叫び声は校舎内にも聞こえていたが、朝礼が始まる頃には静かになっていた。
「あ」
その翌朝のこと。
部屋の鍵を閉めたことりは、だりあと出会った。
寮は基本二人部屋だが、生徒会の六人だけは特別に個室が与えられている。男女の区別はなく六部屋だけがある生徒会フロアだが、不思議なことに約束なしではなかなかはちあわせなかった。
「おはよう」
「おはよ」
今日もばっちりヘアセットが決まっているだりあ。並んで歩き始めると、そういえばさ、と切り出された。
「あたしたちの運動、なんかけっこう大きくなったっぽいんだよね」
「大きくなった?」
聞き返すと、だりあは居心地悪そうな表情で頷いた。
「うん。栄翔革命って名前がついて、ネット上で一人歩きしてるみたい。どっかの県じゃ、先生たちが団結して署名活動始めたらしいよ」
ことりも表情を曇らせた。
賛同者が多くいてくれることはいいことだ。しかし彼女がうかない顔なのは、やはりことりと同じ不安を抱いたからだろうか。
「やっぱり気になる? 学園のこと」
きくと、だりあは小さく頷いた。
ことりたちの目的は、栄翔に卒業や退学の制度を設け、自由に学園を抜けられるようにすること。けれど、話がだんだん大きくなっているように感じるのだ。
このままでは学園そのものの存在や、栄翔に居続けたいと思っている生徒を害しかねない。だからといって止まる気はないが、気がかりではあった。
「そりゃあ、多少は影響が出るでしょうね」
後ろから聞こえたクールな声に振り返ると、そこにはふうがいた。
側まで来ると、大人っぽく笑う。
「それをどこまで抑えられるかは私たち次第よ。私たちが、いかにうまく交渉できるかにかかってるわ」
その言葉に、ごくりと唾をのむことりとだりあ。
すると今度はさらに後ろから、
「そんなに気張んなよ!」
と元気な声が。
あると、かなた、つぼみがやってきていた。
「なるようになる。し、学園がどうなろうと、僕らの人生を犠牲にする理由にはならないよ」
「自分は在学し続けたいけど、署名をくれた子もいたよ」
狭い廊下で六人が集結する。
それだけで、胸中の言い知れない不安は小さくなった。問題は何も解決していないが、逆に言えばまだ何も始まっていない。
そう。全てはこれからだ。
ことりたちは、六人並んで階段を下りた。
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