第15話 反響

 謹慎が明け、二週間が経った。


 SNSでの署名活動は案外好調だ。

 学園の内外から順調に集まっており、かつ先生たちはそのことに未だ気づいていない。


 目標数は、栄翔の生徒数の半分、二百。まだ届いてはいないが、なかなかいいペースで進んでいた。



 最も反響が大きかったのは、つぼみが実体験を綴ったものだ。若者のユーザーが多いアプリで公開したこともあり、多くの協力者を得た。



 表だった活動ではないため、学校生活に支障もでない。六人は、革命と平穏を両立した日々をおくっていた。




 そんなある日。


「今日、呼び出されたわ」


 生徒会室で、ふうが言った。


「一般の人から学園に問い合わせが殺到してる

 みたい。今度は何をした、ですって」


 みんなの表情に緊張が走る。

 ふうだけがなんてことないような顔でペンを走らせる。


「それで、なんて返したの?」


 強張っただりあの声に、ふうは鼻で笑った。


「何もしていません」


「え!?」


 大嘘も大嘘だ。

 これが何もしていなければ、何が行動と呼べるのだろう。

 驚き戸惑う五人の前でふうは、


「外部の人が自然に違和感を感じたんだって思わせたら、あの人たちの意識も変わるかなと思って」


 黒髪を揺らし、ひょうひょうと言う。


「マジか……」

「さすがだね」


 あるととかなたが、どこか呆れたような顔をする。



 六人の行動が、多くの人を巻きこんで、栄翔に嵐をもたらそうとしていた。




 その数日後には、ことりも先生に呼び出された。

 赴いた職員室では電話の音が鳴りやまず、先生たちがあわてふためいている。

 疲れた顔の教師に、ふうと同じように問われた。心の中のふうが、背中を叩いた気がした。だから答える。


「何もしていません」


 証拠はスマホの中にしかなく、そこに思い至らない先生には見つけられない。

 ことりはしばらく問われ続けたが、何もしていません、の一点張りでやり過ごした。


 教室に戻ると、ひそひそと話す声が聞こえた。


「栄翔の制度に問題があるって、今ネットで盛り上がってるらしいよ」

「なんか、中等部の生徒がネットにあげたんだって」

「知ってる! さっき食堂のテレビでもやってたよ」

「藤島先生が秒速で消してたけどね」


 盗み聞いた噂に、ことりはぎょっとする。

 テレビニュースにもなっているのか。

 栄翔には、食堂にしかテレビがない。あまり食堂を使わないことりは知らなかったが、話はかなり大きくなっているらしい。


 それもそうだ。なにせ、日本中にその名を轟かせる栄翔学園である。クーデターが起きたとなれば、全国的な話題にもなるだろう。


 ことりは、自分たちが起こした行動の大きさに息をのんだ。

(でも、後悔はないよ)

 たとえ社会を大きく揺るがすことだとしても。


(私たちは、私たちらしく生きてやる)

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