第13話 ひらめき

 謹慎五日目。

 ことりはスマホを手に深呼吸した。


 ひらめいた一つの案。それをみんなに提案しようとしているのだ。


 メッセージは完成して、あとは送信するだけだ。



 という状態で、約三十分が経つ。



 相手は気心の知れた仲間たちだ。過去にはもっと馬鹿げた提案をしたこともある。

 なのに、いや、だからだろうか。今回はなかなか踏みきれなかった。


 なにより重みが違うのだ。この提案には、今と、これまでと、この先。全ての子どもたちの想いがかかっている。みなみのおかげでそう気づいた。

 それに、もう時間がない。受験の手続きなどのことを考えると、卒業を巡る争いはそろそろ終わらせなければならない。



「よし、いくぞ……」


 気合いを入れて送信する。


『SNSで署名集めってできないかな』


 達成感に息をついた直後、スマホが震えた。

 画面をのぞくと、もう返信がきている。


(はや……)


 かなたからだ。『SNS?』と問いかけてきている。

 ことりは手早く打ち返した。


『うん。SNSなら、先生にばれないんじゃないかと思って』


 世代的にも性格的にも、栄翔の教師陣がSNSを使いこなしているとは考えにくい。先生の目がなければ、もう少し署名が集まるかもしれない。


 すると今度はだりあからメッセージが。

『でも、栄翔ってSNSやってる子少ないよ?』


 ことりの表情がひきつった。

 たしかにそのとおりかもしれない。ことり自身も、その手には疎い。使いこなしているだりあに言われると自信がなくなってくる。


 しかし、ふうは意外な反応を示した。


『いい案だと思うわ』

『ちょっと、ちゃんと履歴読んでる?』


 怒っているだりあの想像がつく。

 ふうはいつもどおりの余裕の表情だろう。

『読んでるわよ』と返信し、次のメッセージを発する。


『栄翔生の署名にこだわる必要はない』


 ふうが何を言いたいのか、理解するのに少し時間がかかった。

 やがてことりははっと息をのむ。

 あるとがきいた。


『世論を味方につけようってか?』


 ふうが、『えぇ』と返す。


『学校は、生徒がいなければ成り立たない。世の中の大人たちを、子どもを通わせたいと思わなくすればいいのよ』


 栄翔の現状を社会に広め、入学希望を減らす。制度改変が学園の存続のために必要な状態までもっていく。


 栄翔の未来を、人質にとる。


 ことりは、背中が粟立つのを感じた。

 事の重大さに手が震える。けれど同時に、絶対に叶えてやる、と覚悟を決める。


『もしそうなったら、お母さんたちの説得も同時に済むね』


 と、つぼみ。

 たしかにそうだ。両親は、栄翔学園卒という肩書きを与えるためにことりを入学させた。それが弱くなったら、もはやことりがここにいる意味はない。



『だりあ、核になれるかしら』


 ふうの問いに、満開のダリアが答える。


『任せて』


 と。

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