第9話 理由

「次は世界史の八島先生」


 ことりが持つのは、数学の先生から渡されたメモ。協力してくれる先生の一覧だ。


 ことりは、あの授業後ふうのもとへ走った。

 先生の言葉を伝えると、ふうはにやりと笑う。その後作戦が立てられ、生徒会は放課後すぐに動き出した。


 ふう、かなた、つぼみの三人は、校長先生たちへ謝罪へ。もともとの信頼は厚いので、おそらく先生たちは少しすれば気をゆるす。それを待って次の行動を起こす予定だ。


 一方ことり、あると、だりあの三人は、協力が得られそうな先生たちを回っていた。



 遠くに運動部のかけ声を聞きながら、ことりは二人に尋ねた。


「ねぇ、二人はなんで協力してくれたの?」


 あるともだりあも目立った行動は起こしていないが、すでにクラスで孤立してしまったようだ。

 二人は目をまたたかせる。だりあが吹き出した。


「あはは。違うよ、あたしたちは、自分の意志で協力してるの」

「そーだぜ。オレたちもこの学園を出たいんだよ」


 二人の笑い声が廊下に響く。

 拍子抜けすることり。あるとは後頭部で腕を組んだ。


「なんでって言われたら……。そうだな、オレ、スポーツで世界を繋ぎたいんだよな」


「スポーツで?」


 あるとは恥ずかしそうに頬をかいた。


「この学校ってさ、世界で活躍するために教育に力いれてるじゃん? でもさ、それだけじゃないんじゃね? って思って」


「それだけじゃない?」


「学べない子どもを救うのが、学歴を鼻にかけた大人なわけない。アスリートは外国語なんてわかんなくても、世界のヒーローになれるからさ、オレはそっちからアプローチしたいなって」


 普段は軽い人柄のあるとが、真面目に語った。

 ことりとだりあは意外そうな顔を見合わせる。


「だりあはなんで?」


 照れたあるとが話題をそらす。

 今度はだりあがはにかんで口を開いた。


「あるとのあとだとしょぼく聞こえるけど……、あたしの人生、こんな狭い世界で終わりたくないから、かな。あたしは、もっと広い世界を知りたい」


 好奇心旺盛なだりあらしい理由だ。

 だりあは今でもSNSで情報を集め、さまざまな活動に参加している。



 

 ことりは、静かに自問した。

 二人には、卒業を目指す自分だけの明確な理由がある。ことりにもつぼみを応援する以外の理由はあるが、やはりそれは大部分を占めている。

 人生に対する、覚悟が違う。ずっと側にいたのに、こんなにも違いがあるなんて。

 重苦しい劣等感が胸にたちこめる。


 ことりはもやもやしながら、社会科教員室の戸を叩いた。

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