第7話 結果

 ふうを見つめる、八つの目。

 全てを一身に受けて、彼女は堂々と立っていた。



「たしかに入学は親御さんの意向だろう。だがそれはみんな同じだ。君たちの同級生も、社会で活躍している先輩たちもそうなのだよ」



 早口にまくしたてた校長。

 それは揺るがない事実で、ことりたちにとっては最も否定しにくいところだ。

 ことりには、反論の言葉がもう出てこない。

 ふうも迷っているのだろうか。

 沈黙が流れ、校長が勝ち誇ったような顔をした、そのとき。

 ふうは首をかしげ、平然と言いはなった。



「先輩方って、本当に社会で活躍していらっしゃるんですか?」



 その場の誰もが、意味を理解できなかった。


「え……?」

「何を言っているのかね?」


 校長がまた語気を強める。

 栄翔の卒業生と言えば、政治家や大企業のトップ、各分野の専門家などばかり。そのことは、ふうもよく知っているはずなのに。


「これは私個人の意見で、生徒会みんなとは関係ありませんが」


 そう前置きして、ふうは語りだした。


「先輩方は、本当にその能力を認められて出世しているんでしょうか。私には、全員がそうとは思えません」


「……何が言いたい?」

 校長が言う。

 ことりはかなたを見上げた。静かに首をふるかなた。なるようにしかならない、と。


「栄翔は、都合のいい人材を育てていると思うんです。従順で指示に忠実。それでいて知識は豊富で技術は高い」


 頭の中で、ふうの言葉を繰り返す。

 たしかにそのとおりだろう。栄翔の生徒は、目上の者へ歯向かうことを知らない。ことり自身、社会に出たら上司や先輩の指示には的確に従う自信がある。




「それって、汚れた社会に流されかねないってことですよね?」




 ひょうひょうと言うふう。

 一同、絶句。

 校長は口をぱくぱくさせる。

 ことりははっとした。たしかに、そうだ。


「横領とか改ざんとか、間違ったことを指示されても断れない。それどころか間違っていることに気づけない。それって社会で活躍しているって言えるんでしょうか?」


 言葉を失う校長をはた目に、ことりは戸惑いの視線をかなたに向けた。

 交渉のはずなのに、まるで怒らせるような物言いだ。

 しかしかなたは、大丈夫、とでも言いたげに頷く。無言のまま、顎で篠原先生を示した。

 目を見開いている先生。


(先生がなんだって言うの……?)


 かなたの意図がつかめず、謎が深まる。

 再びたずねようと送った視線は、怒鳴り声に引き戻された。



「何を言うんだね!! 馬鹿なことを言うんじゃない!」



 その声に、先生たちが集まってくる。

 大人たちの視線にさらされ、ことりは不安げに身を縮こまらせた。

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