第3話 自由への一歩

「私たちの目標は?」


 大机に肘をつき、会長は言った。

 ことりはノートを開いた。議事録はことりの担当だ。


「生徒の意思で学園を抜けられるようにすること」


 あるとの言葉を手早くメモする。


「そのための課題は?」

「学園のシステムの変更」

「親の説得もいるよね。入学は親が決めてるんだし」


 と、つぼみとだりあ。

 どちらも難しい課題だ。

 ことりも長期休業には両親の家に行くが、彼らは手強い。心からことりのことを思い、栄翔を出れば幸せになれると本気で信じているからだ。

 おそらくみんなの両親もそうだろう。


「学園のシステムって、どうやって変えるんだ?」


 あるとが問う。


「校則を変えるには生徒総会だけど……」

「校則うんぬんの問題じゃないわね」


 かなたとふうのやりとりに、生徒総会の文字に横線を重ねる。

 まだ余白の多いノートを見つめながら、ことりも考えた。


「これは昔からの風習だもんね。覆すのは校則じゃなくて……」



「大人たちの意識」



 六人の声が揃う。

 ことりはすかさず書きこんだ。

 みんなの意見が一つになる、この瞬間が好きだった。


「やっぱり直談判?」


 と、だりあが提案する。


「つぼみ、先生たちの反応はどうだった?」


 まさに直談判に行って玉砕してきたつぼみは、思い出しながらといった様子で口を開く。


「やっぱり卒業生が多いから、ありえない、みたいな顔してたなぁ」

「みーんなそうやって育ってきてるんだもんね」


 容易に想像できるその様子を、ことりはイラストつきで記す。

 思わず笑ってしまった。


「あ、でもね」


『でも』は、書記として聞き逃せないワードだ。気持ちを切り替え、つぼみを見る。


「篠原先生だけは、優しいっていうか、同情、みたいな顔してた」


「篠原先生……」

 ぼんやりと復唱する。

 たしか、一昨年赴任してきた若い男性の先生だ。


「そっか、あの人栄翔の卒業生じゃないから!」

「学園に疑問を感じてるってことね」


 あるととふうが言う。ことりはピンクで篠原先生、と書いた。

 職員室の空気を変えるキーパーソンになりそうだ。


「その人をとっかかりにするのはありかもね」


 と、かなたも満足そうに頷いた。

 しかしことりは生じた不安を口にする。


「でもさ、篠原先生ってまだ来たばかりでしょ? なんていうか、権力あるのかな」


 六人は無言で顔を見合わせた。

 栄翔の教師陣は、卒業生が多いためよくも悪くも一体感がある。またベテランが多く、篠原先生の発言力にはあまり期待できなかった。


「そうね、少し弱いかも」


 ふうが冷静にそう評価すると、みんなの表情は一斉に暗くなる。

 議論が振り出しに戻ろうとした、そのとき。


「でもさ」


 だりあが、一際明るく言った。

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