第2話 栄翔学園
栄翔学園は、かなり特殊な学校だ。
幼等部から高等部まで一貫の全寮制私立学校。
だが、受験できるのは幼等部のみ。転出入や退学は認められておらず、生徒の中に自ら入学したものはいない。三歳の幼子のその先十五年の人生を、保護者が決めたのだ。
素質のある人間だけを集め、学園は独自のペースで授業をすすめる。栄翔の生徒が優秀なのはそのおかげだ。
しかし、成長の過程で意思をもつ子どももいる。
つぼみは調理実習を機にお菓子作りに興味をもち、パティシエールを志したのだ。中学三年生の今、卒業と製菓学校受験を学園側に訴えたが、その結果がこれである。
ことりは落ち着いてきたつぼみをソファに座らせ、自分は対面、かなたの隣に腰かけた。
だりあがつぼみに寄り添って座ると、あるとがおどけたように
「あれ、オレの席は?」
と慌てた。
三年間続けてきたルーティーンの一つ。
生徒会は代々六人なのに、この生徒会室、なぜか席が五人分しかないのだ。
つぼみがくすりと笑う。
狙って席を埋めたことりは、だりあと目配せしてほほえんだ。
「つぼみ、あなたこれからどうするの?」
容赦ないことをきくのはふう。
この厳しさに悪気はない。五人にとっては慣れ親しんだふうらしさだ。
「とりあえず反省文かな。あとは勉強。次のテスト、私一位とらなきゃいけないから」
かなたが、整えた原稿用紙をつぼみに返す。
「またそのペナルティかよ」
「次、かなり範囲広いわよね」
あるとが後ろ足で壁を蹴り、ふうは教科書を繰った。
「大丈夫? つぼみ」
「頑張るしかないよ。だりあちゃん、日本史教えてくれる?」
だりあはぐっと親指を立てる。
つぼみの事件などなかったかのように、それどころか罰を受け入れて次のテストの話をし始める面々。
ことりは、ちょっと待って、と声をあげた。
「待ってみんな! ……流されてるよ」
神妙な面持ちで言うと、五人はあ、という顔をする。
ふうとかなたが呆れ、あるとは頭を抱え、だりあとつぼみは苦笑い。ことりは胸をなで下ろした。
「危ない……。また刷り込みに流されるところだったわ」
刷り込み。それは六人が――栄翔の子どもたちが入学当初から言われ続けている教え。
停学や退学が存在しない栄翔では、非常時のペナルティとしてテストでのノルマと反省文が課される。それらを完璧にこなすのが栄翔生なのだ。
ことりたちは、生徒会として他校と多く関わることで、そのいびつさにいち早く気づいた。
かなたが、つぼみの手から原稿用紙を取りあげた。
「かなた?」
十の疑問の目を向けられながら、かなたは突然、それをびりびりに破いた。
息をのみ、けれど瞳を輝かせる五人。
紙切れと化した原稿用紙を机にばらまき、かなたは立ち上がる。
ことりはその横顔を見つめた。
「僕らはもう言いなりになんてならない。みんなで、この牢獄から脱出しよう……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます