すくーる・りのべーしょん!
涼坂 十歌
第1話 つぼみの涙
中学生にはもったいない豪奢な部屋に、四人は沈うつな顔で集まっていた。
一際立派な机につくロングヘアは、生徒会長、ふう。
スポーツ少年らしい副会長のあるとは窓から校庭を見下ろし、同じく副会長のだりあはカールした栗毛を弄ぶ。
歴代生徒会役員名簿を見終わったことりは、ちらと同じ書記のかなたを見やった。
ローテーブルの上でエアピアノを奏でている。どうやらかなり不機嫌なようだ。
栄翔の生徒会は、進学時テストの成績上位者十名の中から選ばれる。選ばれた六名にはいくつかの特権とその成績を維持する義務が与えられるが、普段なら寮で勉強中の五人が、こうして放課後遅くまで残っているのには理由があった。
「つぼみ、遅いね」
だりあが、誰にともなく呟いた。
「もう一時間になるかしら」
「あぁ。いくらなんでも長すぎる」
ふうとあるとが心配顔を見合わせる。
かなたが無言なのは通常運転。ことりは、胸の前できゅっと拳を握りしめた。
様子を見に行こうよ、と言いかけた、そのとき。
「来た」
かなたが、手を止めて呟いた。
「え?」
その直後、ドアノブが曲がる。
重厚なあずき色の扉をくぐって現れたのは、ふわふわの黒髪に丸めがねのつぼみだ。
ほっとしたのも束の間、蛍光灯に彼女の顔が照らされると、ことりは目を見開いた。
「つぼみ……?」
「その顔、どうしたの?」
言葉を失ったことりの代わりに、だりあが続ける。
つぼみの右頬が、真っ赤に腫れていた。
ひきつった笑みをうかべ、渇いた声をもらす。
「なんか、大事になっちゃった。先生たち、いっぱい集まって、怒られて」
抱えているプリントが、震えている。
ことりはごくりと唾をのむ。
つぼみの優しげな瞳が、揺れていた。恐怖か、不安か、はたまた生徒会室の安心感か。
駆け寄りたい衝動にかられたが、つぼみの唇が動いたのを見てこらえる。
「そしたら、お母さんたちが、来て。ばかなこと、言うなって……!」
腫れた右頬に手をやると、せきをきったように泣きだした。
冷たい床に座りこみ、声をあげて泣きじゃくるつぼみ。
ことりは、今度こそ駆け寄って抱きしめた。
「つぼみ……!」
だりあも来て、つぼみの頭を撫でる。
かなたは散らばったプリントを拾い集めた。
「くそやろう……!」
「生徒の勇気を無下にしておいて、なにが世界を導く人材よ」
あるととふうは、悲痛な声で怒りを口にする。
つぼみを抱きしめながら、ことりは唇を噛んだ。こんな小さな女の子一人に、大の大人がよってたかって説教なんて。怒りがふつふつと込み上げていた。
おとなしいつぼみが、精一杯の勇気で起こした行動だったのに。慰めてあげたい。励ましてあげたい。でも、なんて言えばいいのかわからない。ことりは、無力だった。
この学園において、生徒たちはあまりにも無力だった。
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