第38話 のこされたもの
終章の(1)
夜明けとともにアダマンティアさんは、どこかに去っていった。
「アダマンティア、悪かったな。お前のおかげで」
別れ際、ネクトーさんが言いかけると
「いつもそうやってあやまるのは、あんたの――」
アダマンティアさんも、そう言いかけて。
二人は視線をあわせ、
「ネクトー、またね」
「ああ、アダマンティア」
アダマンティアさんは、逆さまの顔でぼくの肩に手を置き、
「レブ、あんたはよく頑張ったね。ジェーニャと幸せにね」
そう言ってくれた。
「でも、これからなにがあっても、神と契約なんて、考えちゃだめよ」
「はい……アダマンティアさん。もうしません……たぶん」
「ふふふ」
アダマンティアさんは微笑んで、そして闇の中に、溶けるように消えていったのだ。
どこへいくのか。
どういう存在なのか。
すべて、わからない。
終章の(2)
ぼくたち——ぼくとジェーニャ、そしてネクトーさんは、シドスの町のぼくの家に、もどることにした。
ジェーニャが、ぼくとネクトーさんに話をききたがったのだ。
ぼくはジェーニャと手をつないで歩き、後ろからネクトーさんがついてくる。
ネクトーさんが、ぼくに言う。
「なあ、レブ、お前の家に行ったら、まずは、アマジャ茶を淹れてくれ。お前のアマジャ茶は、絶品だからなあ……」
そんなわけはない。ネクトーさんのいうことは、どうもおかしい。
「そうそう、お前に渡すものが——」
と、言ったネクトーさんの気配が、ふっと消えた。
「えっ?」
ぼくとジェーニャは、あわててふりかえった。
「ネクトーさん? ネクトーさん?!」
しかし——ネクトーさんの姿は、もうどこにもなかった。
「そんな! ああ、ネクトーさん!」
またしてもネクトーさんは、邪神のしもべとして、どこかに、どこか遠くの見知らぬ土地に、放りこまれてしまったのだろうか。
もっとお礼を言わなければいけなかったのに。
ぼくのできるせいいっぱいのアマジャ茶を飲んでもらわないといけなかったのに。
ネクトーさん。
あまりに過酷な、その運命。
いつかネクトーさんが、その記憶を取りもどし、彷徨が終わるその日が、いっこくも早くきますように。
ぼくは、心から祈ります。
パリャードの御神にも、邪神といわれるハーオスさまにだって、ぼくは祈ります。
「レブ兄ちゃん、見て」
ジェーニャが言って、指さした。
あれは。
その赤く、とげの生えた小さな実は。
ランカ。
ランカの実が、三つ。
路上に、ぽつりと。
(レブ、これは、お前にやるから。ジェーニャと仲よく食べな)
そんなネクトーさんの声が聞こえたような気がした。
ぼくの目から、涙があふれる。
終章の(3)
——オレガンの峰の中腹。
そこには、巨大な岩塩の岩塊が、聳えている。
岩塊の頂上には、パリャード御神の柱が立つ。
この岩塊と御柱は、この世界に攻め入ろうとした妖星からの怪物を、神の御使いが退治したその証しであるという。
残念なことに記録は失われ、詳細は伝えられていないが、伝承を信じ参拝する者はいまも絶えない。
遺跡の案内者は、かつてシドスの領主であったものの子孫だとも言うが、これも言い伝えにすぎない。
「混沌の邪神のしもべ3 祭壇の少年」 完
混沌の邪神のしもべ3 祭壇の少年 かつエッグ @kats-egg
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