EpisodeAnother

「お前…またこんな点数を取って!お前はなぜ頭が悪いんだ!」

「違うのよ!ボクは頑張ってるのよ!一生懸命勉強したんだよ!」

「黙れ!一生懸命勉強したらならもっと良い点数になったはずだ!お前は手を抜いてるんだ!」

「そうじゃないわよ!勉強が…得意じゃないのに…!」

「勉強が嫌いだと!!そんな子供に育てた覚えはない!!ふざけるな!!」

「違うのよ…!どうしてこんな点数で怒鳴られないといけないの…!」


かのりは悪夢を見た。ベッドから飛び起きる。汗がにじむ。微かにだが震えもした

朝。まだ隣でミイが寝ている。そんな悪夢を見たせいかまだ怖い気持ちでいっぱいになった

もう、家族とは離れ離れになったはず。だが、たまに悪夢を見てしまう限り脳内でへばりついた思い出だろう

…かのりは勉強ができなかった。スポーツや人付き合いは陽キャのようにできたが、勉強ができなかった

何時間、数時間、数十時間かけても決して点数が伸びずいつも親に説教されていた

小学生から今に至るまでそのことが大いに悩み、学習障害なのかと自分で悩んでいたときもあった

実際細かい部分や頭を使わないといけないことはすべてまだ勉強できるミイにまかせている

ミイがいなかったらかのりが経営してる農場も機能しなかっただろうと思う

華奈はうつ病だが勉強はできた。かのりは太陽だったが学習できなかった。その時点でかのりは負けていた

そのことが今でも悩むほどでありそして辛い部分であった。なぜ、ボクはできないんだろう

また考えてしまう。目をつぶり、悪夢を見たことを最悪な気持ちになってしまう

こんな最悪な顔をミイが見てしまったら心配されてしまう。かのりはすっとベッドから離れる

自分の住んでいる自宅の2階。下に降りて洗面台がある場所へと向かう。顔を洗おう

洗面台に着き、蛇口をひねり、水を出す。冷たくていい。かのりはバシャバシャと顔を洗う

少し顔を洗ったら洗面台の鏡を見る。悪夢を見たのか顔がどんよりとしてる。あまり効果は無かったか

かのりはため息を吐く。ボクらしくない。これじゃあミイに心配されてしまうじゃないか

かのりは思わず顔を叩く。パンパン!…痛いだけだった。あまり筋肉のない手で顔を叩いても意味がなかった

うつむいたまま、洗面台のある部屋のドアを見た。いつの間にかミイがいた。かのりは慌てて言う

かのり「み、ミイ…」

かのりにとってミイは既にパートナー婚をした一人。婚約指輪もつけている

あまり表情の変えないミイだったが、寝ている隣の人がいないことに気づき、洗面台の部屋まで来ていた

そんなミイは愛しい人を見て心配そうな顔をしている。何かあったのだろうか。そんな顔をしていた

ミイ「かのり…?どうしたの…?」

かのり「あ、あのね…その…」

かのりがどう言おうか考えたらミイが答える

ミイ「何か…悪夢でも見た…?」

そう言うとかのりは正直に答えた

かのり「ちょっとね。過去の嫌な思い出が夢で出てきて、それで顔を治そうと思ってここに来たのよ」

顔を治そうだなんて果たして言葉になってるか不明だがミイは顔色を変えずに言う

ミイ「かのり…無理しないで…貴女だって、精神薬飲んでるんでしょ…?」

かのり「…」

かのりは何も言えなかった。かのりも実は華奈と同じくフラッシュバックに悩む一人であった

陽キャでありながら勉強ができず家族にネチネチと言われて精神が病んでしまった。原因は自分自身と家族のことだった

前向きには明るく振舞い、人生楽しく生きてるような顔をするが裏では勉強ができなかったことを深く悩む一人である

それゆえほとんどうつ病に近い状態でクリニックにも通っている。通っている年数はそう多くはないが

勉強ができない。ただそれだけで大いに悩む、訳ありな人物である。華奈には秘密にはしている

かのり「…心配かけてごめんねミイ。ボク、こんなこと無かったらもっと貴女を愛せたのに…」

顔をミイに向けていたが、再びうつむいてしまう。こんなこと無かったらよかったのに

ミイはそんなかのりを見て側に寄る。そしてミイは自分よりちょっと大きいかのりの顔すっと向けさせる

ミイの手がかのりの顔を持ち見つめ合う。そしてミイは言う

ミイ「心配しないでかのり…私には…貴女がいる…それだけでも十分な幸せなのよ…」

かのり「み、ミイ…」

かのりが言うとミイはすっと手をどける。うつむいたかのりはそのまま顔を上げていた

かのり「…うん。ごめんねミイ。落ち込むことはもう止めるわ。だってボクには貴女がいるもの」

そう言うとミイは笑顔になる。彼女の笑顔にどれほど救われてきたかわからない

ミイ「それでいいのよ私のかのり…」

ミイは自分より身長の高いかのりを静かにギュッと抱きしめる

かのりはこのミイの暖かさに悪夢が消え去ろうとしていた。ボクにはこの人がいる。それだけで十分だ

ミイと結婚してから問題になった家族とも離れて暮らすようになった

理解できる人との暮らし。十分すぎる幸せだ。かのりとミイは悪夢を消すかのようにギュッと抱きしめていた


朝食を終えたら早速農場へと向かう

かのりが経営してる農場は実に大きい。様々な野菜と果実を育てているがほとんど2人で育ててる

他の人の手も借りずに2人でなんとかやっている。たまに人が視察に来る程度である

まずは春野菜からだ。かのりはビニールハウスで育ててる春野菜を見ていた。どれも美味しそうな春野菜だった

キャベツ、セロリ、アスパラガス、そら豆、さやえんどう…春野菜であるたけのこは残念ながら竹がないため無しだ

チェックするがどれも順調に育っている。特にアスパラガスは毎日出荷できるほどだった

この国の太陽で野菜がへばってしまわないか心配ではあったものの特別心配はいらなかった

かのりは早速春野菜の収穫へと手を伸ばす。今日はキャベツとアスパラガスとそら豆だった

キャベツはたくさん育てているため大丈夫だしアスパラガスがどんどん伸びてるしそら豆も収穫できていた

こんな美味しそうな野菜を見ているとこっちが食べたくなるわね。そう思うがこれは売れる物。我慢して収穫する

かのりが収穫しているとミイはまじないをかけた水を持ってきて水やりをする

前にも言ったが水の精霊のまじないは溜まった水でないと効果を発揮しない。水を溜めてまじないをしている

それゆえスプリンクラーという便利な装置は付けてはいない。まじないをかけた水は野菜をより美味しくする

スプリンクラーを付けないと大変だがこれもミイの能力を使うため。ミイもそれを同意に水やりをする

あっちこっちのビニールハウスで収穫して倉庫に置く。ひとまず春野菜の収穫が完了した。それと水やりも

かのりは疲れたがまだやるべきことがある。次は夏野菜と果実だ

夏野菜は基本的に外である。この国の太陽で育てている。実は華奈達の育てている野菜とあまり変わりはしない

そんな夏野菜を見る。最近あまり雨や風がないためこちらも順調に成長している

華奈達が育てていない野菜がある。みょうが、ししとう、シソ、と言ったものだ。みょうがは毎日採れるほどだ

もちろん同じ野菜もある。きゅうり、ピーマン、トマトと言った野菜…

土の精霊でもあるかのりのまじないと水の精霊のミイで成長して美味しい野菜が採れている。これも食べたいほどだ

今日はたくさんのきゅうりとみょうがが採れた。きゅうりは少し曲がってたほうが美味しいしみょうがは新鮮なほど美味しい

かのり「みょうがはパック詰めにしてまとめて売ったほうが一番よね」

ミイ「そうね…きゅうりも忘れずにね…」

採れた夏野菜は倉庫に置いといて後でまとめておく。春野菜と夏野菜。それだけでも十分な価値がある

忘れるところだった果実の収穫をする。この国だから夏の果実がほとんどである

野菜で十分採れるためかのり印の果実はそこまで多いわけでは無い。スイカ、マンゴー、さくらんぼである

特にスイカはこの国だと一番売れる果実であり夏の気候が多いせいか冷たく食べる果実は人気だ

でもスイカは野菜なんて言われているが果物に近いんだから果物である。まあ野菜を育ててるから一緒かもしれない

今日はスイカが採れた。落とすとまずいので一個一個慎重に収穫して倉庫に持っていく。一番慎重に扱うのはスイカかも

そんなことをしてるうちに昼ごはんの時間になった。かのりとミイは休憩して昼ごはんを食べる

ミイ「今日はね…夏野菜のスープよ…」

ミイがいつも料理を作ってくれている。かのりは料理ができない

いつもミイが嫌な顔ひとつもせず作ってくれるためそういうところではかのりはミイに頭が上がらない

だが水の精霊?なのかやけにスープ料理を用意してくれることが多い気がする

しかしかのりは決して作ってくれたものを否定せず食べようとする

かのり「いつもありがとう。いただきます」

そう言うとかのりは美味しそうに食べる。なんだかスパイスの効いたスープだ。具もたくさん入っていてこれは美味しい

食べているとミイがじっとかのりの顔を見ていた。ん?味がどうか聞いているのだろうか?

おそらくそれだ。かのりの感想は普通の感想だった

かのり「うん!美味しいわ!こんな料理作ってくれるなんてミイは凄いわね!」

かのりが言うとミイは笑顔になる

ミイ「嬉しいわ…作ったかいがあったわ…」

2人は笑顔でスープを飲み、食べていた


午後の作業は採れた野菜のパック詰めだ

とは言えどそこまで揚力のいる作業ではないためかのりとミイは黙々と作業をする

採れたアスパラガスをパック詰めして、採れたみょうがをパック詰めにして…などなど

実際パック詰めにしてなくていい野菜もある。だが、まとめて売りたいためこの作業は欠かせない

しばらくすると今日採れた野菜は全部パック詰めを完了した。案外そこまで時間がかからなかった

かのり「ふー!全部終わり!」

ミイ「お疲れ様…かのり…」

ミイは言うがかのりは言う

かのり「ミイだってお疲れ様。だって一緒にやってくれたもの」

ミイ「夫婦の共同作業は…嬉しくなるわね…」

そう言うとミイは無表情でパック詰めされた野菜と果実を見る。こんなにたくさんの野菜達に囲まれた仕事…

2人とも幸せそうであった。後はトラックを待つだけだ

かのり「もうそろそろトラックが来るはずだけど…」

すると倉庫にトラックが登場した。この運搬はさすがにかのりとミイの出番ではない

トラックから男性が出てきた。いつも野菜を運んでくれる人だ。男性はかのりとミイを見ると帽子を外して挨拶する

男性「かのりさん。今日も来ましたよ」

かのり「ありがとう。運んでしまうね」

そう言うとトラックの後ろを開けて出荷する作業にはいる

春野菜と夏野菜、そして果実をトラックに詰め込む。3人でやっていた

そして全ての作業が終えた。後はスーパーや組合センターで売られるのを待つだけだ

男性「じゃ、運んできまーす」

かのり「頼んだわよ」

その一言を言うとトラック運送者は野菜達を運び、外へと出ていった

かのりとミイの今日の仕事は終わり。夕方に近い空になっていた。かのりは倉庫から外に出て空を見上げていた

今日も一杯作業した。これだけでお金が手に入る。嬉しい話であった

かのり「…今日はさ、悪夢見ちゃったけど仕事をしたらなんとかなったわ」

いつの間にか後ろに着いてきたミイが言う

ミイ「大丈夫よ…私が付いてるから…」

かのり「ありがとう、ミイ」

いつの間にか夕方になっておりかのりとミイは自分のパートナーを優しく包むかのように寄り添っていた


夜。ミイがいつも夕飯の支度をしてくれるためかのりはのんびりリビングのテレビを見ながら待っていた

ミイの手料理はいつも美味しい。ミイの趣味自体が料理なので当然美味しいに決まっている

今日はなんだろう。かのりは缶チューハイを飲みながら台所をチラチラ見つつミイを見ていた

ミイが気づいたのかふと台所から後ろを振り返り目線をかのりのほうに向ける

かのりが言う前にミイが言う

ミイ「今日はね…ナスとキャベツをふんだんに使った…ホイコーローみたいなやつよ…」

かのり「わあ。美味しそうね」

ミイ「ふふ…慌てなくてもちゃんと作るから…待っててね…」

そう言うとミイは再び台所に目線を向ける

かのりは思ったがこんな料理が好きな人とパートナー婚できて嬉しいと心からそう思っていた

自分はあまり料理ができない。せっかく精霊として産まれたのに…いや、関係ないか

しばらくしてると料理が完成してリビングのテーブルに料理が置かれた

ミイ「はい…たくさん食べてね…」

かのり「いつもありがとうミイ。愛してる」

かのりが言うとミイは少しだけ照れる表情を見せる

ミイ「そ、そんなこと言わないでよ…」

かのり「ボクの思いさ。いただきます」

かのりとミイは料理を食べていた

食べている最中、ミイはふと思ったことを言う

ミイ「ねえかのり…」

かのり「ん?どうしたのミイ?」

ミイはこのことを言っていいかわからないが、あえて言った

ミイ「華奈さん達のことだけど…あの人達…ライバルな感じがして…ちょっと怖い気がするのよね…」

かのりは言われると少し難しい顔をする。しかし、すぐに明るい顔になった

かのり「大丈夫よ。華奈には頭の良さは負けてるけど、気にすることはないわ。ボクとミイ。それだけでも大丈夫なんだから」

そう言うとミイは心配する必要はないわね。と思い言う

ミイ「そうね…私とかのりがいれば何も心配いらないわ…へんなこと言ってごめんね…」

かのり「謝る必要ないわよ。大丈夫よ」

大丈夫。その言葉の意味は軽くて安心する。2人は笑顔で再び食事をしていた


お風呂も2人で入って出て、明日もあるから早く寝ることにする

寝室のベッドの上。2人は仲良く寝る。2人で寝そべるとミイは言う

ミイ「…また、悪夢を見たら…」

そう言うとかのりは遮って言った

かのり「その時はギュッとミイの体を抱きしめるわ」

ミイ「まあ…私、抱きまくらの役割だったかしら…?」

ミイはちょっと照れくさい顔になった。だが、全然悪くはない

ミイ「じゃあ…私からかのりを抱きつくわ…」

彼女がそう言うとかのりの体をギュッと抱きしめて寝ようとした

かのり「んもう、ミイったら。おやすみミイ」

ミイ「おやすみ…かのり…」

やがてそのまま静かに2人は寝た。明日もある。相手が自然だからいつ何かが起きてもわからない

悪夢を見ないようにと、そう思い2人は寝た


リュウキュウの夜

特別冷房のいらない日。とても寝心地いい日だった


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