第24話 カレールーマン

彼の名はカレールーマン。

頭の上部が器になっていてカレールーで満たされている被り物を被っているヒーローだ。

日夜、人々の為に東奔西走し駆けずり回っているのに彼は皆に良く思われていなかった。

ヒーローとは周りに理解されず、常に孤独なものだ、とカレールーマンは独り言ちるのだが、彼の事を良く知るジェフリーが通りかかった。


「あ、ども、ジェフリーさん。こんちわっす。」


「だからお前は会釈をするなって言ってるだろ!」


カレールーマンが丁寧に挨拶するとジェフリーが大きな声でそれを制止しようとするが既にカレールーマンは頭を下げた後で、ジェフリーはハァッと溜息を吐く。それを見たカレールーマンは『俺は単に挨拶しているだけなのに』と不思議そうに首を傾げた。


「お前は気づかないかも知れないがな・・・」


ジェフリーは何か溜め込んだものを吐き出すかのように溜息を吐いた後にこう言った。


「垂れたカレールーが下に落ちて飛び跳ねるんだよ!お前が挨拶する度にズボンがカレールー塗れになるんだよ!」


「いや、すいません。つい癖で・・・」


「癖なら仕方ない・・・、ってなるか!お前は持っているズボンの裾がほとんど黄色のスポットで彩られた俺の哀愁を知っているか!?」


「斬新なデザインですねぇ。」


「他人事みたいに言ってんじゃない!俺だってわざわざ新調したズボンにいきなり黄色いシミを付け足す趣味はない!」


「変わった趣味してるなぁと思ってたんですよ。ダメージドジーンズとか流行るからアリなのかなと。」


「ナイね!お前はその被り物の所為であまり周りが見えてない様だから気づいていないかも知れないが、それなのになぜカレールーを並々と器に注ぐんだ。お前が動く度に溢れてるんだよ!それと!もっとその被り物はピッタリ合ったものはないのか?良くズレて傾いてるだろう!」


「いや、だってこれ被らないと宣伝料貰えないし契約だから・・・」


「生々しいんだよ!そういうとこがアレなんだ!お前ヒーローだろ!?子供の夢を壊すような事言うなよ!」


「こればっかりは・・・。俺も生活していかなきゃならないし・・・。」


「ほらそれ!それがダメなんだよ!子供に世間の厳しさを教えるヒーローって何なの?」


「いや良くあるじゃないですか。悪に立ち向かうってのも世間の厳しさを・・・、おっと。」


「ほらそれ!何で気が緩むと傾くような緩いの被ってんの?あーあー、また掛かっちゃったよ。」


「前から日々、新しいデザインを模索してるんだなぁと思ってたんですよ。」


「してないよ!なぜ黄色に特化してデザインを追求しなきゃなんないの?そこまで黄色を愛してないよ!?」


「まあ、いいじゃないですか。そんな人が居ても。」


「なんで他人事?ねぇ、分かってる?この前も怪人とつかみ合いしながらカレールー垂らしまくってたよね?あの後掃除したの俺なんだよ?お前は怪人と仲良く警官に補導されてったじゃん。」


「あー、あの時はどうも。怪人にもクリーニング代請求されて散々でした。あの後一緒に飲みに行って警官の愚痴を言い合っている時も『これ、中々落ちないんだよねー』とか嫌味言われちゃって。」


「あ、それ、分かるー。めちゃ、分かる。てか、怪人と飲みに行くなよ。」


「いや、向こうも色々と事情があるみたいで。」


「怪人に同情する位なら俺に同情してくれよ。」


「ジェフリーさんは何やかやで懐が大きいから。」


「勝手に懐が大きいで済ませるんじゃない。それに気づいてる?お前が周りの人にあまり話し掛けられない理由。」


「えっと、何すかね?ヒーローだから話し掛けづらい?」


「違うよ。お前のそのカレールーが被り物に垂れて汗と相まってものすごい臭いを出すんだよ!時折上手い具合に目元の下に流れ落ちる様に跡が残って、黄色い涙を流している様に見えて怖い事あるんだよ?それが口元ならもっと怖い。」


「ああ、だからあの子、泣いてたんだ。」


「そんな事があったんなら疑問に思えよ!」


「助けようとして近づいたらこっちを必死の形相で見つめて怪人にしがみついてましたからね。怪人が思わず庇ってましたよ。」


「そん時のお前はどんな状況だったんだよ。」


「俺は思わず後ろを振り返ってみましたけど何もないからそのまま前を向いたら怪人が『この子には手を出さないから大人しく帰してやってくれ』とか言い出しちゃって解決ですよ。」


「それで良かったのか悩むところだな。」


「俺、良く周りに勘違いされるんですよ、そういう場面で。」


「ヒーローとしては致命的なんじゃ?」


「ちょっと前に、転んでしまった女性を助け起こそうとしたら『やめて!私にそのカレーを掛けようと企んでいるんでしょう!』とか言われて困りましたよ。」


「それは女性が正しい。」


「まぁ、その時には既に動いた後なんでカレールーは掛かっちゃいましたけどね。」


「ちょっとは反省してやれ。善意なだけに性質が悪い。」


「その女性も今や、立派に悪の女幹部ですよ。」


「ひょっとしてお前が原因か!?」


「嫌だなぁ、次会ったらそう名乗って来ただけですって。『勝負服の恨み、ここで晴らしてみせる』とか言っちゃってましたけど何なんすかね、あれって。」


「多分・・・、タイミングが悪かったんだよ・・・。」


「やっぱ、そうっすかー。俺って何かツイてないんですよ。何でなんすかね。」


「どう考えてもその被り物が原因だろ。」

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