第14話 目標とセットバック
リッキーはとある大会に参加する事にした。どうやら開始地点からスタートしてゴール出来れば賞金が貰える大会で払った参加費の額の分だけ賞金が上乗せされるらしい。参加するかどうかは説明を聞いてコースを見てからでも出来る様だから、出来ると思えば参加して、出来ないと思えば参加しなければ良い。ただし挑戦は一度切り。そして大会の内容を誰かに話してはいけないという条件があり、たった一度の儲け話を無駄にしない為にもリッキーは入念に準備した。
身体を鍛え、食生活を正し、好きな酒も我慢した。身体がようやく以前の引き締まった身体に戻ったのを確認して大会に参加する事にした。
会場に出向いて見ると結構な人数が来ており、皆やる気になっていた。出来ると思えば参加して、出来ないと思えば止めれば良いだけだからリスクがないと言え誰もが稼ぎ時だと考えている様で、こういった時だけ入念に準備する奴はどうかしてるな、と自身もそうでありながらも苦笑していると係員に呼ばれて説明を受けた。
どうやら個別に説明と随伴をする様で変わってるなと思っていると、コースの下見の際に不正をしないか見張る為だと言われて納得した。大会は単純な障害物競争の様なもので、時間内にゴールに辿り着けば賞金が貰え、参加費が高ければ高い程賞金も高くなる。道具などは大会側で用意したものだけを使用し、持ち込みは禁止で体と衣服のみと言われた。
説明を聞いた後にコースの下見をする事になった。少し歩くと背の高いアーチ状の扉の枠の様なものがあり、枠に沿って地面に白線が引かれていて地面には「ゲートをくぐる事」と書かれていた。その場所に立ち辺りを眺めていると係員は遠くを指差す。指差された先には小高い丘があり頂上付近に派手な装飾された建物がありどうやらそこがゴールらしい。走って3時間くらいか、とリッキーが思っていると係員は話し出す。
「あれがゴールです。途中には障害物と達成する必要のあるミッションが配置されています。ミッションを全てクリアして時間内にあの建物の近くにあるゴールをくぐれば合格です。制限時間は5時間で、下見をしたければ触る事は出来ませんが近くで見る事は出来ます。」
なるほどと遠くを見た後に横にある看板を見ると「現在位置」と記された場所からゴールと記された場所までの間にいくつかのステージが用意されている。どうやら体力切れでミッションをクリア出来ずゴールまでたどり着けない様になっているらしい。
そのステージの中でリッキーは気になったものを見に行った。係員に誘導され車にのって移動してステージを回ったのだが、障害物は細い道を渡ったり綱で掘りを飛び越えたり的当てゲームで的に当てるなどの条件達成型のものもあったりするが、どれもリッキーが思っていたほどの、決して易しくはないが出来ないわけでもないものばかりだった。
これならいける、と確信したリッキーは、アクシデントさえなければ確実に賞金が手に入るのであれば参加費はかなり多めに払ってもリスクは低いと考えた。
途中、参加者が汗だくでヘロヘロになりながらミッションに挑んで失敗している姿を良く見かけ、失敗する連中は体力切れか苦手なカテゴリーのミッションで詰まるらしく、結構何をやらせても器用にこなすリッキーにはどれも苦手と言えるものはなかった。
リッキーはミッションについての質問をいくつかした後についでに聞いてみた。
「説明を聞いてコースを下見した後に諦める奴っているのか?」
「ええ。そういった方はいらっしゃいます。事情は良く分かりませんが内容的に厳しいと感じた方はお止めになります。」
「そうなのか。結構いけそうなもんだと思うがなぁ。で、ゴールした連中ってのはどれくらい居るんだ?」
「それは秘密です。多くの方が合格しているからと言ってその本人に出来るかどうかは分かりませんので、あくまで自身で出来ると思った方のみに参加していただいております。」
そんなもんかね、と思うリッキーを見ていた係員はこう言う。
「質問は以上でよろしいでしょうか。無ければこちらの書類に参加費の額とサインをお願いします。」
そう言って車内で書類を見せられ、リッキーはそこで参加費の額と貰える賞金の対応表を見て、こんなに貰えて良いのかね、とほくそ笑みながら、ここで勝負しなければ絶対損をすると思い貯蓄のほとんどを参加費にした。
リッキーがサインを終えるのを待って係員は聞く。
「では準備はよろしいですか?」
「いつでもOKだ。」
リッキーはもうやる気充分で、数時間後にはちょっとした金持ちになっている自分を思うとニヤニヤが止まらなかった。係員は近くにいたスタッフに書類を預けるとそんなリッキーを見て言う。
「ではスタート地点に移動します。」
「ああ、いいとも。早く行こうぜ。」
そうして車はスタート地点に向かって移動し始めた。20分程度車が走ると最初にリッキーが見た少し背の高いアーチ状の枠のある場所まで戻って来る。
しかし。
車はそのまま通り過ぎた。
おや、と思ったリッキーが真横を通り過ぎたスタート地点を見送った後に係員に話し掛ける。
「どうした?まだ何か準備があるのか?」
それに係員はこう答えた。
「もうしばらく待ってください。」
「ああ、待つけど。まだ手続きがあるのか?」
「手続きと言いますかスタートするには必要なのです。」
「そうか。まあ、ついでにトイレとかも済ませたいな。」
「それはご自由にどうぞ。」
そう言ってから係員は黙り込み、そして10分から20分程度か車を走らせた後に車は停止した。
次は何の手続きがあるのかね、と思ったリッキーは車から降りてギョッと驚く。
なんとそこには「START」と書かれた幕のかかった派手な門があったのだ。
その横には看板があり、良く見ると「現在位置」と書かれている場所に「START地点」とも書かれている。
唖然としたリッキーを横目にストップウォッチを用意しながら係員が話す。
「トイレが済み次第スタートしますのでお早めにどうぞ。」
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