第13話 頼れるのは?

ゴードンは窮地に追い込まれていた。宮廷内の重大な汚職に関与したとあらぬ言い掛かりをつけられて牢にぶちこまれて数日。した覚えのない事で牢に放り込まれているから何が何やら事情も分からず、ただ分かっているのはゴードンを良く思わない宰相派の連中が国王派を切り崩しにかかったのだろうという事だけだ。

なぜそう断言できるかと言えば日に日に権力を増す宰相を泊めようとする派閥の幾人かが既に事故死や左遷で宮廷から居なくなっているからで、どうやらゴードンも邪魔な存在だとみなされた様だ。

ゴードン自体はしがない騎士でしかなく、しかし護衛としての任に当たる事があり、恐らく宰相は王族を取り巻く護衛に自身の息のかかった者を多く増やしたいのだろう。そうすれば常に情報を集める事が出来て有利に事を運ぶ事が出来る。


しかしゴードンにとって今の状況はかなりマスい。宮廷内の足の引っ張り合いなどには縁のなかったゴードンにはどこまで対処出来るか分からなかった。ゴードンとて宮廷内に足を運ぶ事もあるから多少の自衛策は出来るのだがそんなものはいかに罠に嵌められないかでしかなく、強引とは言え罠に嵌められた後にはどうする事も出来ない。せめて上級貴族に縁があれば簡単に切り捨てられないだろうが木っ端役人とでも言うべきか単なる王宮勤めの1人でしかないゴードンにそこまでのリスクを背負って助けてくれる者など居ない。


そう思っていた。


「無事か。元気そうで良かった。」


そう話し掛けてきたのは同僚のヒューバートだった。彼とはそれほど親しい付き合いなどしていないのだがどうやら騎士団の面々も今回の事は良く思ってないらしく、皆で話し合って計画を建てたそうだ。


ヒューバートから話を聞いてゴードンは自身の状況が良くない事に、いや、はっきりと悪い事を思い知らされた。宰相派の策略で他にも貴族が罠に嵌められ国王派はその対処に追われていて、しがない一騎士にまで配慮していられないらしく、このままでは疑わしいという事実だけで強引に処刑されてしまう可能性が出てきた。ゴードンが関与していない証拠をゴードンは提示出来ず、ゴードンが運搬を頼まれた書類などがゴードンからしてみればたまたま汚職に関係した書類だったというだけだ。運が悪いにも程があるが無実である事を証明しようにも牢の中ではそれも出来ない。ここで処刑されるまで黙って待つしかないのがゴードンの現状という事になる。


そしてヒューバートが牢の前に立っている。ゴードンの現状を良く思っていない同僚たちはヒューバートを送り込み、ゴードンに一旦遠くに逃げる様に提案してきた。ゴードンが一旦遠くに逃げている間に皆でゴードンが汚職に関与した証拠がないという事実を主張してゴードンの罪を撤回させるそうだ。


ゴードンにとってはここでこのまま処刑されるのを待つか逃げるかの選択になり、逃げると言うのも騎士にとっては不名誉な事だと言え、しかし罠に嵌めた連中に都合の良い結果にするのも癪で、そしてそうなってしまえば罠に嵌めた連中は更に増長するだろう。そんなふざけた結果になど出来るものかとゴードンは考える。

そうして悩んでいるゴードンを待ちきれないのかヒューバートはソワソワとし始める。無論彼もリスクを背負ってここに来ているのだ。牢番に何か渡して目を瞑って耳を塞いでもらっているが、そう長くはここに居られないのだろう。ゴードンが答えるのを待ちきれないのかヒューバートは話し出す。


「いいかい?チャンスは一度だけなんだ。何度もこの手は使えないし、数日の内に処刑されるだろう。貴族達の混乱に皆の目が向いているから騎士の1人や2人、混乱に乗じてさっさと処刑しても誰も気にしない。ゴードン、君はそれで良いのか。」


そうヒューバートに言われてゴードンはうっ、と言葉に詰まる。このまま処刑されては無実すら証明出来ない。処刑された後に冤罪だと分かった所でゴードンにとっては既に意味がないのだ。

ゴードンは逃げる決意をしてヒューバートに告げた。するとヒューバートは安堵して喜んで言った。


「良かった。後は俺たちで何とかする。2週間もすれば状況は変わるさ。それまでの辛抱だ。とりあえずこの服に着替えてくれ。」


ヒューバートは牢の鍵を開けてゴードンを牢から出して下級官吏の着る服を手渡した。ゴードンが服を着替えるとヒューバートと牢番はアイコンタクトした後に頷き合った後、ヒューバートが牢番の首へと手刀を落として牢番を気絶させた。


そうしてヒューバートとゴードンは牢を抜け出し誰にも呼び止められないまま城の裏口から街へと逃げた。貴族達のスキャンダルに皆の注意が向いているからかヒューバートやゴードンには誰も関心を見せず、そしてゴードン達が足早に移動しているのも何か急ぎのお遣いでもしているのだと思われていそうだ。ゴードンはなるべく俯き加減でどうか知り合いに出会わない様にと願いながらヒューバートと共に人気の無い道を選んで城から出来る限り遠くへと歩を進め、街外れにまで来た時にヒューバートが話し出した。


「ここらで良いか。ピレニー通りの露天商が服を扱っていて足がつきにくだろう。これを代金に使ってくれ。しばらくの宿代にもなるだろう。露天商に服を買うついでに換金してもらうといい。」


そう言ってヒューバートは右手につけていた指輪を外してゴードンへと渡した。牢に入れられ手持ちの貨幣などないゴードンにはありがたくそれでしばらく貧民街の安宿に隠れていればどうにかなりそうだと見当をつけた。

指輪を受け取ったゴードンにヒューバートは言う。


「俺に出来るのはここまでだ。何とか耐えてくれ。幸運を祈る。」


そう言ってヒューバートは帰って行った。


ゴードンは指輪を持って露天商の所に行き、服を買い指輪を換金していくばくかの貨幣を手に入れて貧民街へと隠れた。

そして数日後に噂でゴードンの置かれている現状を知る。


城で汚職に関わった騎士が牢屋から逃げ出した。本人は無罪を主張していたそうだが、後ろ暗い所があるからか内通者と共謀して脱獄。汚職で紛失していた装飾品の1つである指輪を街の露天商で売り逃亡。現在指名手配中との事。


ゴードンはようやく知る。


嵌められたのだと。

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