第9話 続・イワンの馬鹿
~~前回までのあらすじ~~
王国に生まれたイワンは馬鹿正直だった。いや素直に実直だったと言うべきだろう。働く事を苦とも思わず、働けるなら食っていけるからと財産にも欲を出さない男だった。何かと夢を見て欲を出す兄弟を気に掛けずに地道に働くイワンには悪魔の誘惑も効かなかった。悪戯する悪魔を捕まえたイワンは命を助ける代わりにいくつかの貴重なものを貰ったが大半は良く深い兄弟にくれてやった。
そんなある日、お姫様が病気になり治療薬がないから困り果てているのを聞いて、悪魔から手に入れた薬を使ってお姫様の病気を治すとお姫様の婿になって欲しいと言われイワンはやがて王様になった。
イワンの国では働く事こそが美徳であると教えられ、自分が怠けて誰かに命令して動かす事は悪徳とされた。イワンも先頭に立ち率先して働いたから国民全てが同じ様に誠実に働き、国は飢える事もなく平穏になった。そんなイワンの国をつけ狙う大悪魔がイワンの国で民やイワンを頭を使って働けば体を使って労働するより楽に稼げると誘惑したがイワン含めて皆その誘惑に耳を貸さなかった。そうして大悪魔の計画はイワンの国では徒労に終わり逃げて行った。
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それはある日気づいた事だった。イワンが城の備蓄を数えさせた時に違和感があった。いままでは倉庫の入り口近くまで穀物を詰めた袋を積み上げていたのだがどうにも減っている気がする。そう、確かもう1[m]程前まで袋が積みあがっていたのを覚えている。
毎年2、3割程を備蓄に回し、3年周期で入れ替えているのだがその量が減っているのだ。どうした事だと思ったイワンは調べたが、元々国民が不正をしているとも思っていなかったがやはり不正はなく、誰かが怠けていたとは思っていないがやはり怠けておらず、皆頑張って収穫してくれた。
しかしだ。
イワンもここ数年作物に元気がなくなっている様に思え、それを他の者に聞いても同じ様な返答が返って来た。田畑は確かに実りある穂を揺らしていたのだが、気づかない程度にその数を減らしていたようだ。その原因を調べる内に、未成熟な実や病害にやられた田畑の数が徐々にだが増えている様だと見当をつけた。しかしその原因が分からない。日の照りは今年も問題無く雨も問題無かった。種籾も良い物を選んだ筈で、皆も良く働いてくれた。どこにも収穫が悪くなる要素がなかった。
そんな時、大商人が商品を売り込みにやってきた。何でもイワンの国でもきっと欲しがる商品があるらしかった。そんな凄いものがあるのかね、とイワンは思いつつも大商人の話を聞いたのだが驚くべき内容だった。
どうやら収穫に問題が出ているのはイワンの国だけではなく周辺の国でも起こっているらしく、皆が頭を抱えていたがそれを解決した薬があり、これを土壌に撒くだけで収穫量は元に戻るそうだ。取り戻せる収穫量に比べれば薬の値段など売却益から軽く出せる価格だとも言っている。ただし効果が出るのは2,3年後だと思って先行投資になるそうで、イワンもその程度なら何とかなるかと思い購入する事にした。
そうして数年経ち、収穫量も元に戻ったと喜んだのも束の間、今度は謎の病気が流行りだした。感染しやすいのかどうかすら分からないが発病した者の周囲の者も多少の時間のズレはあるが発病し、その周辺地区でも流行る為に流行り病として思われるのだがそれ以外の地区で発生するのが珍しい病気にイワンは頭を悩ませた。そんな病気は風土病がほとんどで長年住んでいる、そして長い年月を過ごした王国でそんな風土病は聞いたこともなかった。
そんな時、以前から土壌を肥やす薬を売って貰っている大商人が売り込みにやってきた。何でもイワンの国でもきっと欲しがる商品があるらしかった。まさかな、とイワンは思うも商人の話を聞いたのだが驚くべき内容だった。
どうやらこの病気はイワンの国だけでなく周辺の国でも起きているらしい。皆が頭を抱えていたがある程度対処出来る薬があり、これを患者に飲ませれば完治は出来ないが症状が和らぎ、元々軽い症状の者ならほとんど気にしなくて良くなるそうだ。そんな薬があったのかとイワンは喜んだ。多少の出費だが民の命には代えられないと、イワンは薬を購入する事にした。しかし完治しない為に定期的に飲み続けないといけないらしい。
これで原因が分かるまでの時間が得られたとイワンは喜んだ後原因を探るべく部隊に原因を捜索させたがそこで問題が発生した。イワンの国には身体を動かし良く働く者は居ても知的労働専門で働く者が居ないのだ。薬師なども居るが実用が主で研究はほとんどして居らずこういった時に弱点が露呈してしまった。その道の大家と呼べるようなものでもなければ原因不明の新しい病気を調べるなど出来ないのではないかとイワンは思うがそれでも可能な限りの人員を割くしかなかった。
そんな時、以前から土壌を肥やす薬や病気の症状を緩和させる薬を売って貰っている大商人が売り込みにやってきた。何でもイワンの国でもきっと欲しがる商品があるらしかった。まさかな、とイワンは思うも商人の話を聞いたのだが驚くべき内容だった。
どうやらイワンの国で病気の特定が難しいと思った大商人は多少の仲介手数料は貰う事になるが他国の偉い学者を紹介してくれるらしい。多少と言いながらそこそこな額を要求されたイワンだがそれで解決の糸口が掴めるならと学者を紹介して貰った。
そうして数年が経ったが中々原因は分からず、しかし病気が発生する地域は限られるのが分かったのでそれほどの被害が出ない事も分かった。しかし常に患者は居て薬を購入して症状を緩和させている状況だけが続いている。土壌を肥やす薬、症状を緩和させる薬、病気の原因を判明させる為の学者の給料と研究費、患者が常に一定数居る為に労働力が減っているなどの負担がイワンの国に重くのしかかり、イワンの国は貧乏になってしまった。
周辺の国でも同じ様な状況で、この状況を喜んでいるのは薬を取り扱っている大商人とその仲間だけだった。
大商人は独りごちる。
「フフフ、うまくいったものよ。以前は軽くあしらわれたが今回は違う。イワンの奴め。何が起こっているか分かるまい。きっかけはたまたまだ。この安価で効率の良い燃料は使えば使う程に雨が毒を持つ様になるのだよ。そうすれば土地が痩せる。するとどうだ。この土壌を肥やす薬が売れる様になる。これを作った奴には感謝感激だよ。そしてどうだ。この薬を使うとどうなっているのか知らんが近くの井戸や川に毒が流れる。その毒に侵された水を飲んだ者は病気になる。するとどうだ。この症状を緩和する薬が売れる様になる。これを作った奴にはキッスの嵐でもくれてやりたい。そしてどうだ。原因は無くなっていないから継続的に薬は売れ続け、学者などの仲介料でたんまり稼げる。これぞビジネスというやつだ。笑いが止まらん!まあ、あと数年は保つだろう。それまでにたくさん稼いで巨万の富を得るとしよう。そうしたらこれだ。不幸な出来事で死んだ学者の論文を遺品整理で見つけた事にして原因を発表しながら特効薬を売る。これぞビジネス!だが燃料を使う事を止めれば楽な生活が出来なくなるし競争に勝てなくなるから使い続けるしかない。薬は売れ続け患者も常に居る。こんなボロい商売ちょっとやそっとじゃ見つからない!」
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