第7話 終末救世主伝説ホウトのケン

--

オチがありませんw。

--


照り付ける太陽が容赦なく日の下で働く者をジリジリと焼き、吹きすさぶ風は砂ぼこりを舞い上げまるで煽るかのように顔や体に叩きつける。舞った埃は空気を燻ぶらせそこに生きる者達の先行きを表しているかのようだった。誰もが見通しの立たない暮らしに疲れ、だが捨ててしまう事も出来ずに空を見上げる事さえ忘れて日々を過ごしていた。


「ヒャッハー!お前の物は俺の物なんだよー!」


「ヒィッ。こ、これだけは、種籾たねもみだけはどうか、どうか。」


「ケチくせぇこと言ってんじゃねぇ!さっさと寄越せやゴラァ!」


そう言って男は目の前の初老の男性を蹴り倒した。躊躇いなく奪うその男は七三分けの髪とメガネ、スーツといった容姿で、前のボタンを外しネクタイも緩めたかなりリラックスした状態だった。一方で蹴り倒された初老の男性は筋骨隆々で髪も短く多少の事ではビクともしない頑丈さを持っているように見えた。

そんな両者を分けたのは力。そう、力なのだ。

力無き弱者は暴力に屈し全てを奪われる世界。世界は既に終末を迎えようとしていた。


初老の男性からもぎ取った種籾を袋から取り出しヒィ、フゥ、ミィと顔の緩みが止まらない男性はその小さい粒を先ほどの初老の男性相手に見せた荒々しさとは全くかけ離れた丁寧さで数え上げる。


「ヘヘッ。ちゃんと持ってんじゃねぇか。」


数えた種籾を大事そうに袋に戻しながら男は縋ってくる男性を突き放しながら言う。


「世の中、強ぇモンが勝つんだ。世の中、理論武装チカラだよ、チカラ!」


「でも、それを、原資それを持っていかれたらもうどうしようもなくなる!」


「ああーーーん?そんなこたぁ、知った事じゃねぇんだよ!契約は契約だ!売れるモンは売れるだけ売って足りない分補充してもらうぜー?この種籾もきっちり買い手を探してやるよ。適正価格でな!もっとも、すぐに買い手がつくような値段にしないとなぁ?」


「そんな!?捨て値で売るなんてしたら何の足しにもならない!か、返してください!」


「うるせぇ!法こそが正義なんだよ!なんだぁ?お上に逆らうのかぁーー?逆らっちゃうのかぁ?駄目だなー、ダメな奴だなぁ?契約違反は法律で罰せられるよぉー?ほら、ほらね?ここにあんたの名前がちゃあぁんとあぁるだろぉおう?分かったらいつまでもベタベタ触ってんじゃねぇよ!」


なおも縋る男性を足蹴にするも初老の男性も退くわけにはいかないのか縋り付いこうとする。周囲の人間は誰もそれを止めようともせずに、ただ目を逸らしているだけだった。


その時、風が吹き抜けた。


その男は爽やかな風と共に現れ、いや、恐らく爽やかに感じたのは男が付ける香水がそう感じさせたのかもしれない。男は短髪でスーツ姿だがネクタイもしっかり締め服装も乱れておらず、何が嬉しいのか笑みを浮かべながらネクタイを締めなおし悠々と歩いていく。何よりその眼にやる気が満ちていた。周りの者がその匂いに惹かれ顔を向けるが男は周りの目を気にするでもなく今もなお縋り付く初老の男性を引き剥がそうとするメガネの男へと向かっていった。

メガネの男は縋り付く相手を引き剥がすのに必死でそれに気づかず、突如として現れた男が背後に立っても分からず、そして男がメガネの男に声を掛ける。


理論武装チカラこそ全てだ、そう言ったか?」


その声にメガネの男が振り返りながらこう言った?


「ああーん?なんだてめぇは?今取り込み中なんだからよぉ、ちょっと待ってろや。」


首だけ後ろを向いたメガネの男の歪んだ顔を見ながら短髪の男は突然メガネの男の顔に向かって拳を突き出した。いや、その手には何かが指でつままれていた。


「わたくし、こういう者です。」


いきなり目の前に拳を出されたメガネの男は驚いたが拳は寸止めで顔の前で止まり、視界一杯に広がった紙に視線が集中した。それは名刺だった。


「てめえ、弁護士だとぉ?」


メガネの男は縋り付く初老の男の事など無視してその名刺を手に取り確かめる。確かに弁護士と書いてある。しかもこの地方のではなく、それはつまり、彼のボスの権力の届かない相手だという事だ。縋る男を引きずりながらも向きを変え短髪の男を訝し気に見て言う。


「その弁護士様が何の用だ?俺はアンタを知らないんだが。」


その言葉に短髪の男が返答する。


「あなたが知らなくても私には用がある。その男を離しなさい。」


掴まれているのは俺なんだがな、とメガネの男は思いながらとりあえず腰にまとわりつく初老の男性に離れる様頼み、そして初老の男性も状況が良く飲み込めないからか何が起こったか分からないまま瞬きしながら一旦離れた。

周囲の見守る中、短髪の男性は話し始める。


「いいですか?まず不当に相手から奪い取る行為は許されておりません。そしてあなたは奪われた物を取り返そうとしたその方に暴力を振るった。例え契約上の対価や担保を要求する場合でもその様な事は許されておりません。そして差し押さえなら法的な手続きが必要です。その様に私的に執行して良いものではありません。そもそも法的に許されているのかすら怪しいものです。期限は?担保権は?優先権はどうなんです?さあ、その袋を返しなさい。まずはそれからです。」


短髪の男の台詞にメガネの男はたじろいだ。その捲し立てる勢いも然ることながら彼は取り立ててこいと言われただけで少しは法も知っているが詳しくなど知らなかった。彼に出来る事はおべっかとヨイショ、そしてイエスマンだけだった。いや、まだ一つあった。彼は弱者に対しては強気になれるのだ。日頃のヨイショの鬱憤をここぞとばかりに吐き出せる能力があった。しかしどの能力も目の前の短髪の男には通じそうもない事はその雰囲気から感じ取れた。こいつは強い、そう感じさせる何かがあった。


(ボス、ボスに知らせなければ・・・)


メガネの男はそう思い、袋を初老の男性に押し付けながら逃げて行き、後に残るのは短髪の男と初老の男性だけだった。初老の男性は何が起こったのか良く分かっていないながらもどうやら種籾は守れたと安堵の息を漏らし、周りの者もどうやら無事に済んだらしいので笑顔を浮かべいつものに日常に戻った。

突然の不作で契約が履行出来なくなって途方に暮れていた初老の男は突然に現れた目の前の男をまるで救世主を見るような目で眺める。すると短髪の男が初老の男性に目を向け話しかける。


「さあ、これでひとまず落ち着いた。私はこういうものです。」


そう言って短髪の男は名刺を差し出した。初老の男性がその名刺を見るとそこには『法斗法律事務所 弁護士 法斗健一郎』と書かれており、初老の男性は各地で悪者を退治している弁護士の噂を思い出した。『この男が?まさか、そんな』といくら何でもそんな都合の良い話などあるはずはないと考えるもそうであれば良いと思わずにはいられなかった。

初老の男性が名刺から目を離し短髪の男、健一郎の顔を見ると健一郎は微笑みを返しながら話し出す。


「災難でしたね。とりあえず私に話してみませんか?今は何かと都合がつかないかも知れないが、報酬を払うのは全て片付いてから払える時で良いから私に任せる気はないですか?あいつらの好きな様にはさせませんよ。」



メガネの男は急いで部屋の扉を開けた。


「ご、御区長!ウィガル御区長!大変だ!」


「区長に『ご』を付けるんじゃねぇ!バカみてぇじゃねぇか!」


「へい、スイマセン。それより変な奴が現れて俺らのする事邪魔しやがるんです。そいつがこんなものを突き付けてきました。」


そう言ってメガネの男が名刺を差し出す。その差し出された名刺をウィガルは顎をさすりながら見る。


「ほう、お前もようやく名刺を持つ気になったか・・・。ん?なんだ御大層な名刺じゃねぇか。法律事務所?お前いつ法律事務所なんて作ったんだ?それに言葉遣いもいい加減直せ。ここを乗っ取ってから何年になると思ってるんだ。」


「いや、そうじゃなく、御区長!これを持ってた男が俺らの仕事の邪魔をしやがるんで。」


「だから言ってんだろう!何でも『御』をつけりゃ敬語になるなんて思ってんじゃねぇ!」


「ヘイ、スイマセン。ですがかしら・・・」


かしらって呼ぶんじゃねぇ!何度言わせりゃ気が済むんだよ!言い直せ!」


「ヘイ、スイマセン。ですが御頭・・・」


「舐めてんのか!てめえ!なんでそっちで言い直すんだよ!お前はいつもいつも・・・」


そう言ってウィガルとメガネの男が口論をしている所に、近くで話を聞いていた男が割って入る。


「こいつ、あれだ。噂になっている奴だ。群斗のシンを負かした奴だ。なんでも手酷い敗北をした後に舞い戻ってきて完全勝利したとか言われている奴です。」


「なに?あの郡斗のシンをか?チキショウ、そんな奴がなぜウチのシマに・・・。いや・・・、これはチャンスか?そいつをやっちまえば俺らの名にも箔がつくってもんだ。」


「さすが頭!」


「だからそう呼ぶんじゃねぇ!」


「さすがお「だからそう呼ぶんじゃねぇって言ってんだろうが!。キリがねぇ!」」


そう言ってウィガルは目の前のメガネの男を怒鳴った後に、後ろに居る男に声を掛ける。


「出番だぜ。あんたのお仲間をやった奴だ。盛大に叩き潰してくれるのを期待してるぜ。群斗法律事務所のレイさんよ。大手の意地って奴を見せてくれよ。あんた確か妹の治療費が必要なんだよな?成功報酬は色をつけるぜ?なんなら俺の女にしてやっても良い!」


そう言ってウィガルはハハハッ、と笑いだし、レイと呼ばれた男は一言「着手金は用意しておけ」とだけ言い残して立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る