第3話 ももから生まれた浦島太郎と魔法のランプ

昔々あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。

おじいさんは山へ遠征に、おばあさんは川へ選択に行きました。


「ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサー」


おばあさんが川の精霊にそう答えました。

先程おばあさんが川でさぼっていると上流からドンブラコドンブラコと小舟が下ってきてその船には女が一人倒れておりました。

するとそこに川の精霊が現れて


「あなたの落としたのは金の小舟ですか、銀の小舟ですか、それとも普通の小舟ですか」


と聞いて来たのでこれ以上揉め事に巻き込まれたくないおばあさんは「普通の」と即答しました。それはそうです。どうみても金箔を貼ったような女や銀メッキしたかのような女とお近づきになりたくありません。小舟は少々勿体ないかと思いましたが女を見る限りその塗装感から何の迷いもありませんでした。

そして「ファイナルアンサー」と答えたおばあさんは川の精霊が岸へと乗り上げさせた小舟から女を助けましたが女は身重で産気づいていました。おばあさんがあれよあれよと世話をしているとすぐに赤ん坊は生まれ、それを見て安心した女は息を引き取りました。

見てみぬ振りも出来ず家を連れ帰ったおばあさんはおじいさんが帰ってくると事情を話しました。


するとおじいさんは、そういえば今日の場所で男が女を逃がしていたな、と思い、過去の事は振り返ららない性分のおじいさんは良き思い出として心の内にしまいました。

おじいさんとおばあさんは拾った子に太郎と名付けましたが、村の人達は他の子と区別するためにももから生まれた「ももたろう」と呼んでいました。

すくすくと育ったももたろうは強い男の子になり、おじいさんとおばあさんは、この子はやがて山へ遠征に行ってたくさん手柄を立ててくれるだろうと期待に胸を膨らましました。


そんなある日の事です。


「おじいさん、おばあさん。お世話になりました。私は旅に出ます。立派になって帰ってくるので待っていてください」


おじいさんは思いました。こいつはいきなり何を言っているんだと。山へ行って同族殺・・・、いやそれは心に閉まった大事な良き思い出だったと思い止まったおじいさんはももたろうに言います。


「おまえはやがて山に出稼ぎに行ってくれると思っていたんじゃが。とんだ期待外れじゃ」


おばあさんも言いました。


「そうじゃ。育てて貰った恩を忘れて親不幸者じゃ」


そんな2人の小言を聞きながらもももたろうは答えます。


「おじいさん、おばあさん、私は旅に出たいのです。うまくいけば宝を持ち帰る事が出来るでしょう。それではお達者で」


おじいさんとおばあさんの言葉など聞く耳持たないと言わんばかりにももたろうは出発しました。

実はももたろうは知っていたのです。

自分がおじいさんとおばあさんの孫ではないと。

村の者から受ける疎外感と何より偶然会った行商人が「お前は山の一族の者だろう」と教えてくれたからです。育てて貰った恩があるとは言え親や親戚かも知れない者達を殺す気にはなれずにももたろうはどうにか逃げる方法を考えながら体が大きくなるのを待っていたのです。

そうして村を出発したももたろうは海岸へとたどり着きました。

途中、ももたろうは猿のようにがんばる男や雉撃ちしている所に思わず遭遇してしまった男や犬のように平伏して媚びる男が居たような気はしましたが、関わり合いになると面倒だから軽く無視しました。

そんなももたろうは子供たちが亀を虐めているのを見つけました。


「こらこらお前たち、そんな事をしてはいけないよ」


「ヒャッハー!これは俺らの亀だ!口出すんじゃねぇ!」


随分と口の悪い子供達には教育が必要だと思ったももたろうは、下段足払いキャンセルからの奥義「烈風昇竜蒼破紅蓮真空気功拳!」と叫びムーンサルトキックを放ちながらデコピンをしました。

彼もお年頃なのです。ヒーローに憧れても良いお年頃なのです。

ももたろうの放った蹴りは衝撃派を放ち海に浮かぶ小島を吹き飛ばしました。デコピンされた子供たちはびっくりしてしまい「すいませんでしたー!」と叫びながら逃げていきました。

そんな子供たちに向かって、吹き飛ばした島を見ながらももたろうは言いました。


「俺の名は浦島太郎だ。文句があるならいつでもかかってこい!」


どうやら島を吹き飛ばした記念に命名したようです。男の子はいつだって目立ちたいのでしょう。

すると虐められていた亀が言いました。


「助けてくれてありがとうございます。お礼に竜宮城へと連れて行ってあげます」


そうして竜宮城に連れて行かれた浦島太郎は色々と良い思いをしましたが大人の一線を越えた太郎の話は自主規制にひっかかりました。

そんな太郎が3日程遊んだ後に帰る事になると、乙姫さまが太郎に魔法のランプを手渡しこう言いました。


「浦島太郎様、あなたの子供にまた会いに来てくださいね。後、ランプはこすると良い事があります」


男としてはドキリとする一言にヒヤリとしながらも太郎は会計を済ませた亀の背に乗り岸へと帰りました。亀に充分礼を言って別れた後に太郎は貰ったランプをこすってみました。

するとどうでしょう。

ランプから煙が出てその中から大きな魔神が現れたのです。


「竜宮城10000人目のお客様記念です。3つまで願いを叶えましょう。あと、手紙です」


魔神に驚いた太郎ですが、渡された手紙を読み、さらにびっくりしてしまいます。


---前略、過去の俺へ

突然の事で驚いているだろう。

俺は考えた。このランプで何が出来るのかを。

そしてふと思い出した。

あの行商人。その姿を思い出すとあれは俺だったのではないかと。

そうと思えば腑に落ちる。あれ以上の干渉をすればどう未来が変わるか分からない。もっと昔に帰ると俺は乙姫に出会う事もなかっただろう。だからあの行商人と出会う事は絶対であり、俺にとって望ましい事だ。だから俺はあの時代に帰る。

お前も同じ結論に至る事を望む。乙姫は良い女だっただろう?

一つ目はこの手紙を魔神に預けてやがて来る太郎へ渡してもらう。

二つ目はジジババにやるつもりはないが乙姫には持ち帰りたいから金銀財宝がいる。

三つ目はあの時代へと戻る。


さあ、お前も戻るんだ。あまり欲張らずに大きく変えない未来を選べ。

俺はお前が帰った後に乙姫に会いに行く。---


そして太郎も手紙を魔神に渡し、あの頃へと帰っていきました。



そしてそれを見送った太郎は船に金銀財宝を乗せ、亀を呼び出して乙姫に会いに行きましたとさ。

めでたしめでたし。

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