第14話、何だか学園祭の出し物みたいな導入とわくどき



そうして俺は、担がれる御輿の気分を味わえるといったある意味貴重な体験の後。

気がつくと第二稽古場という名の、様々なレッスンができそうな鏡張りの部屋へと連行されていた。



「いただっ、背中がっ腰がっ。なんなのさぁっ、ここに移動するならするって言ってくれれば良かったのにぃ」

「だって、他に人のいない所で話さなきゃ駄目なのに、俊兄待ってるって言うんだもん。何でかなって思ってたら亜沙美先輩たちと話してるし」


いや、待ってたのはそう言った理由じゃなかったんだけどね。

そういうつもりだって分かってたら俺も待ってなかったんだけど。

あ、やっぱり駄目か。

そう考えると、今の強引な方法が確かに一番効率的なような気がしないでもないけど。


「しかも俊お兄ちゃん、ぜんぜんじかくがないよ~。正体ばれないようにしてって言ったのに~」


ちょっぴりおどけた感じの、とって食われたらどうするの的な亜柚ちゃんの物言いに。

それはないでしょうと思いつつも、俺のうかつさで亜柚ちゃんたちの試験がピンチになるかもしれないってことに気付いて。

「ごめんなさい。ちょっと考えなしだったね。すごく知ってる人たちっぽかったから、つい」


俺はすぐに頭を下げた。

たとえそれが無理矢理押し付けられた、理不尽なことだったとしても、その類の言葉は言うべきだろうって思ったからだ。

まあ、俺にはそれしかできないってのが、正直なところなんだけどね。



「なんてね、べつにぐるぐるたのしかったし、これから気をつけてくれればいいよ~」

「うん、元はと言えば、バレないかどうか試してみてって言ったのはぼくたちだしね」


そう言えば、確かに結構ボロを出したような気はしたが、結局バレなかったな。

つまり、俺という人物は、いきなり記憶ないんだって言っても、いつものが始まったって感じで、流されてしまうようなキャラに設定されてるってことなんだろうか。


都合がいいような、心中複雑だったけど。

俺がそれについて考えても、何ら変わることもないので。

そういうものなんだと納得しとくことにした。

 


「それで、そのテストってやつ、どんなことをやるんだい? これからぬいぐるみたちとかくれんぼ、とかなのかな?」

「あれ? 俊兄すごい、良く分かったね」


うわ、やっぱりそうなのか。

さっき一瞬そんなこと耳にした気もするし、この子らが出てきた時点で、予想はしていたんだけどさ。


「俊お兄ちゃんはねー、かくれんぼのおにになって、みんなを見つけるのよ。それから、あゆたちのこと見つけてね」

「えっと、つまり?」


何だか、肝心な所に限ってはぐらかして説明されている気がして、俺は悩む。

絶対わざとだよねぇって思っていると、シュンちゃんが言葉を付け足してくれた。



「これからね、俊兄には、この学園内に隠れたこの子たちを見つけて欲しいんだ。

その中の5人がぼくたちのいる場所を示すヒントの紙を持ってるから、それを元に探してもらうってことなんだけど」

「この中の5人かぁ」


俺は眼前を見渡す。

大小様々、軽く30は超えるだろうぬいぐるみたちの中からヒントを持っている奴を探す事よりも、こんなに放って迷惑にならないのかなと思ってしまったり。



「たいむりみっとは日がしずむまでだよ、俊お兄ちゃん。みんなはがくえんの中にいるけど、あゆたちはお外にいるから、くらくなる前に見つけてね」

「了解しましたっ」


日没までか。

部屋にある時計を見ると、今は10時前、18時頃に日が沈むと考えても、8時間はあることになる。

それを長いと見るべきか、短いと見るべきか。



「だから俊兄、これからぼくたちが隠れるから一人になっちゃうけど、何か分からないことがあったら、学校にいる誰かに聞いてね。バレないように」

「俺には分からないことだらけなんだけど。そっちの方がむしろ結構たいへんそうだなあ」


ここまで来て今更だけれど、やっぱり俺には知り合いが多いらしい。

歩き回れば、俺の知っている人には会えると思うが、どのくらい知られているのかこっちは見当もつかないので、慎重に事を運ばなければならないんだろう。


「それでね、俊お兄ちゃん、らっきーちゃーんす、だよっ。みんなの中から一人、すきなこをえらんで、そのこを俊お兄ちゃんがおともにつれていってほしいの」

「その子がヒントの紙をの持ってれば、ラッキーってことなんだけど、学園の中でも結構危ないことあるからね。俊兄を守るナイトを一人、選んで欲しいんだ」

「なるほど、いろいろ突っ込みどころがあるような気もするけど、良く分かったよ」


例えば、こんなどう見ても危なっかしい二人が気づく危ないことって何なんだろうとか。

ぬいぐるみさんたちに守られそうな俺って一体どうなんだろう、とか。

そのラッキーチャンスなる措置は、なんだかわくわくしてくるなって思ったり。

このテスト誰が考えたのかな?

二人で考えたのかな?

かくれんぼの範囲が学園内であるのならば、当然許可的なものを取ってはいるんだろう。

その様子だと、二人以外にも知り合いっぽそうな協力者がいそうだけど。



「じゃあ俊兄、誰にする?」

「みんなつよいよ~。俊お兄ちゃんはだれがすき?」


二人がそう言うと、ざざっと音を立ててぬいぐるみたちが一斉にこっちを見つめてくる。


「うっ」


それが、怖いって思うことはもうあんまりなかったけど、

代わりにキビシー選択を迫られた優柔不断野郎の気分になるのは何故だろう?

シュンちゃんも亜柚ちゃんも、彼らをモノではなく、一個人として扱っているからかな。


「あ、そうだ、ここにはさっき言っていたサマンサママはいないの?」

「うん、ここにはいないよー」

「ふふっ、サマンサママが良かったの、俊兄?」

「いや、そういうわけでもないんだけどね。何となくさ」


怖そうだから、とはとりあえず言わない方がいいような気がした。


「残念だけど、サマンサママじゃテストにならないよ。対戦闘用殲滅タイプだから」


案の定、似たような感情を持って初めて苦笑いを浮かべるシュンちゃん。

とにかく、どうやらこの中にはいないらしい。


俺はひそかに胸を撫で下ろすと、再びぬいぐるみたちを見やった。

俺にはどうせ違いなんて分からないし、こうなったら直感で選ぼうか、なんて思いながら。



    (第15話につづく)






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