第9話、夢であるのだから、既知のものは記憶にもあるはずで




今度亜柚ちゃんが契約したという方たちにも会わせていただくこととなって。

どうかお手柔らかにと返しつつ。

引き続き二人の身の回りのこととか、楽しかったこととか、いろんな話を聞きながら、二人の言う『神の戸』の町を歩く。 


そして、いくらもしないうちにさっきシュンちゃんが現実だと断じ、亜柚ちゃんが夢のような世界だと言っていた意味に気づく。



実際に俺が知っている神戸と呼ばれる町には行ったことがなかったから、初めて来た場所としての感想になるけれど。

なんだかこの町には現実っぽいものとそうでないものが混在しているように見えた。

自販機にコンビニ、信号機や車に混じって、魔法のお店みたいな喫茶店。

占い屋、異人館、妖怪支部なんてわけの分からないものまであり、なんと言っても目に付くのは、十人十色な人の多さだった。

普通の人と一緒になって一目で魔法使いって分かる、耳が尖っていたり、鼻が長かったりする人が花屋とかで働いていたり。

俺たちのように学園に向かうんだろう。

カラフルなマントに身を包んだ登校中の、魔法使いっぽいマントを羽織り、杖などをもった人達の姿が見える。

そのうち半分はほうきやらなんやらにまたがって空を飛んでいたりするのだから、

すごいやらびっくりするやら、一日ここにいるだけでも飽きないだろうというのが、俺の第一印象で。


大昔から『神の戸』で行われていたという留学受け入れは、そうは言っても久方ぶりぶりらしく。

あんまりにもたくさんの魔法使いがやってきたので、毎日がお祭りのようだと。

朝食のために途中で寄った喫茶店の店長さんから聞いたわけなんだけど。


なんといっても極めつけは、こんなたくさんの人たちに混じり、すっかり溶け込んでいるでっかい狐とかしゃべるほうきとか、普通に二足歩行実現しちゃってるロボットみたいなのとかそういった人たちの存在だった。


ほうきの人にあいさつされた時なんか、正直すごいって声をあげちゃったけど。

何でもここ『神の戸』には、昔から特定種族(俺の目から見れば妖怪って奴だと思う)ってひとたちが、普通に暮らしているらしくて。

その人たちが上手く間に入っているからなのか、特に大事になるようなトラブルはないらしい。


何だかそれってとても凄い事だと思った。

俺の方の世界だったら、しゃべるほうきの人が一人いただけで大騒ぎになるんじゃないかな。

そう言う意味でも、この世界にとって俺こそが異人さんなんだよな、なんて思ってみたりする。


捕まえた宇宙人じゃぁないけれど。

どうやらお気に召すまで放す気はないらしいシュンちゃんと亜柚ちゃんの手と、それにより受ける微笑ましいわねっていう感じの笑顔とか、やっかみ半分羨望半分の視線とか、そういったものを必死に考えない、気にしないようにしつつ。


ようやっととばかりに。

俺たちは目的地である、聖ジャスポース学園へと到着した……。




           ※      ※      ※




今現在、聖ジャスポース学園は夏休みに入っているらしいのだけど。

それでも町内と同じくらい人が多かった。


おそらく部活などの集まりなのだろう。

俺にとっては懐かしいざわめきと活気に満ちているのがわかる。

俺の記憶の中にある高校と違うのは、この学校が相当なお金持ち学校らしく、設備とかがとにかく凄いってことだった。

近代的な、ハイテクな部分と、西洋の魔法学校みたいな建物とか広場とかの様式が不思議な和洋折衷を醸し出しているみたいで、何だかとても圧倒される。


「最近の小学校は、音楽室なんかとくにレコーディングスタジオみたいだったぞ」


と、アニキも言っていた(何でそんな事知っているのかはあえて訊かない)けど。

最近の学校はみんなこんなにもハイソでハイテクなのかって羨ましいことしきりだった。


でもって、登校中もそうだったけれど、亜柚ちゃんシュンちゃんの二人はなかなか人気者らしく、あいさつがてら声をかけてくる人たちがさらに増えてくる。

まあ、確かに二人は可愛い……いやかなり可愛いし、一目二目でわかるくらいには良い子だし、人見知りもしなさそうだから、知り合いが多いというのは頷けるだろう。


しかし、それよりも。

あれっ?って思ったのは、そんな二人よりも明らかに俺自身に声をかけられることが多いってことだった。


しかも性質の悪いことに、俺はその相手に会った事もないし、知らないはずなのに、誰も彼もがどっかで見たことあるような感じがするんだ。

向こうはずいぶんこっちを知っている感じなのに、俺自身が微妙だからやりにくくてしょうがない。


だから、俺はついには声をあげることとなった。

二人に疑問を投げかけるように。



「ねえ、ちょっといいかな? 俺ってここに来たの初めての人だよね?

どうしてみんな俺を知っている……というか、とってもフレンドリーなの?」


ここの世界の人はみんなそうなのかとも思ったけれど、みんな俺のこと俊(しゅん)って呼ぶし(本当は俊なんだけどなと思ってはみても、字面が変わってないからもう諦めた)、やっぱり誰かと勘違いしてるんじゃないかなとも思える。

俺がその事を二人に伝えると、互いに目配せをして何かを通じ合わせて。



「そのことも含めて部室で話そうかなって思ってたけど」

「なにもしらないままじゃ、いやだもんね。あっちに大きな木があって、そこにべんちがあるから、そこでおはなししよ、俊お兄ちゃん」

「ああ、うん」


二人はちょっぴり真面目な表情になって、ほんの少しの緊張感をまとっている。

きっと重要な話なんだろうなって、俺の中で納得して。

一つ頷いたところで再び、当たり前のように二人に手を引かれて。

目指すその場所へと向かうのだった……。



    (第10話に続く)






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