第65話

「押さないでくださーい、最後尾はこちらになりまーす」

「はい、そこっ、横入りしないで」

 静かな村が今では多くのプレイヤーが集まってお祭り騒ぎ状態になっていた。

 砂金狐のギルドメンバーが集合してトラブルのないよう指示を飛ばしているが人が多いと何もなく平和にとはいかない。

 セーフティゾーンのため暴力沙汰にはならないが罵詈雑言の嵐、一時はひどい有様であった。


 それも今は落ち着き、比較的スムーズに進行することができていた。

 それもこれもキリエが呼んだアストリアの面々が睨みを効かせているからだ。

 プロチームの中でもトップクラスの規模を誇り、ファンが多いアストリアに反抗しようというものは少ない。

 ゼロではないだろうが、少なくともアストリア本人たちがいてファンが集まっているこの場でそんな自殺行為をしようとする馬鹿はさすがにいなかった。


「申し訳ない、俺たちの力不足のせいでこんな大事に発展してしまった」

 積み上げられた書類の山を相手にしているキリエにガルドが頭を下げる。


「いやいや、気にせんといてーや。あんさんらは十分やってくれてますわ。商売やってると良縁もあれば因縁もあるもんで、特に何かを決心して動こういうときには両方が集まってくるっちゅうもんや」

「そう言ってもらえるのはありがたいが、追加の依頼料を貰ってる上にプロチームまで呼んでは出費はかなりのものだろう。俺たちの依頼料はもう大丈夫だ」

「うーん……こんなこというと角立つけど、あんさんらへの依頼料なんて大したもんやあらへんわ、堪忍して受け取ってーな」

「ガルドさん、キリエさんの言う通りですよ。それにそんなことしてセイントベアーズのメンバーがタダ働きになってしまうじゃないですか」

 普段からセイントベアーズの事務処理をしていたエヴァンが山積みにされた書類の向こうから顔を出す。


「いや、そこは俺のポケットマネーから……」

「ふざけたこと言ってないで外の整理でもしてきてください。どこも人手不足なんですから」

 力なくうなだれたガルドは巡回しに行った。


 書類は集まったプレイヤーの簡単な履歴書、敵勢力の調査書、この戦闘での支出計算などと様々な種類がある。

 それらを適切に仕分けして処理をこなしていく。

 現実世界の一般事務職とやっていることは大きく変わらない。

 ゲームの中でそんなプレイスタイルはどうかという疑問もあるが、これで稼いで飯を食っているのだから他人がとやかく言うことではないし、必要な仕事なのも事実である。

 なぜゲーム内でやっているのかと言うと現実世界に比べて仕事が捗るからだ。

 VRカプセルに備えられた機能によって体調がベストな状態に整えられ、疲れにくく集中がしやすくなっているのだ。

 現実世界でやってれば倍どころでは済まない時間が必要になる。


 それでも人手不足で半ば心を殺して黙々と作業をこなしていく姿はもはや見慣れた景色になりつつあった。

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