第60話

「バッ……バカな……嵐竜の衣……」

 半透明翡翠色の衣はテンペストドラゴンのドロップアイテムであり、それはテンペストドラゴンを倒した証明でもある。


「マヌケな野郎だぜ!! いい的だ!!」

 一人の男が矢を放つ。

 衣を纏ったシェアロは天女のようで、ゆったりとした動きで宙を舞って連射された矢を躱す。

 飛行系のスキルはいくつかあるが、シェアロが使っていたのは浮遊というスキル。

 似たところで飛翔というスキルもある。

 浮遊は飛翔に比べると機動性がほとんどない。

 しかし、浮遊の方が燃費がいい。

 それに、シェアロからすれば空中にいるということ自体がメリットになる。

 対策のない人間は無力と化し、一方的に攻撃されるだけなのだ。


 二度目の雨が降る。

 一人また一人と倒れていくなか、ゴルグだけが、肩口、太腿、左腕に剣を生やしながら二本の足で立っていた。

「ふざけるな……ふざけんなぁぁぁぁぁ……?」

「うるさいんだよ」

 ゴルグの腹部に氷の槍が刺さり、霜が広がっていく。

 完全に凍り付いた状態で死亡と判定され、ロストアイテムの大盗賊のダガーが回収できるようになった。

「大盗賊のダガー、スキル付きだがいらんな」

 その後、ゴルグたちを全滅させたシェアロとアンドロマリウスの二人は何事もなく町へと帰っていった。


 シェアロと別れた後、アンドロマリウスは鍛冶屋へと向かう。

 当初から活躍してくれたドラゴンスケイルシリーズの装備はこれからの戦いを考えれば少し心許ないものとなっていたからだ。

 そのためのドラゴンラヴィーン。

 レベル的に丁度いいドラゴン種が何匹もポップするため、素材集めにはうってつけだった。

 アイテムの中には条件を達成することによってランクアップするものが存在する。

 死霊の魔術書が神過死典しんかしてんに、フェアリーリングが氷夜の戒めにとランクアップした。

 

 ドロップアイテムと町で作成されるアイテムを比べるとドロップアイテムの方が強力であることが多い。

 基本性能もそうだし、スキルもそうだ。

 しかし、町で作成されるアイテムのメリットは追加で素材を加えることでランクアップが簡単に行える。

 まさに今から行おうとしているのもそれである。

 懐かしのリザードブッチャーJrから盗んだ竜鱗よりもランクの高い竜鱗を使うことでドラゴンスケイル装備のランクが上がる。

 装備の強化は時間がかかるし、このあとは大事な予定が入っているので、ログアウトすることにする。


「あれっ? ネクタイってこんなに難しかったっけ? あぁっ……もういいか」

 意外と時間がなく、スーツを着崩した状態で家を出るハメになってしまった。

 ゲーマーに着こなしなんて期待してないはず……だよな……

 プロチームの中には選手がモデルのような活動をしているとこもあったが、大丈……夫……だな!!

 きっとなんとかなるはず。

 というかなんとかする!!

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