第59話

 シェアロが特に気にしたのがどうして急にテンペストドラゴンが落ちたのかだった。


「ヒョウガのパッシブスキルに氷塵散布というものがある。これはすべての攻撃に付与されて、攻撃が当たるたびに飛び散る氷の欠片、これに触れるものを凍結させるスキル。特にテンペストドラゴンはその性質上空気を大量に体内に運ぶ。そのとき一緒に氷の欠片も吸い込んでいたというわけだ。ブレスのために深く息を吸い込んだことで凍結が一気に早まった。種明かしはこんなもんだ」

 ルミナスオンラインではスキルを除けば概ね、理に従って事象は動く。

 それはルミナスオンラインの世界での断りではあるものの現実世界と近いものがある。

 生物が大きく息を吐くためには息を吸い込まなければいけない。

 テンペストドラゴンのブレスはスキルではない。

 ドラゴンという種族に備わっているものである。

 鳥が翼を使い空を飛ぶのと同じく、人間が足を使って歩くのと同じく、それらはスキルではなく、理によって成り立っている。

 翼がなければ空は飛べず、足がなければ歩けない。

 そういうものなのだ。


 ブレスがスキルならばこうはならなかったかもしれない。

 しかし、この理を知っているアンドロマリウスからすれば当然の結果だった。

 しばしの休憩を挟み、二人はドラゴンラヴィーンをあとにする。


「兄貴……これは……」

「暇な奴らだな」

 道を塞ぐのはかつてシェアロとパーティを組んでいた者たちとその仲間、総勢で30人ほど。

「お前ら結構なお宝持ってんだろ、いくつか置いていくなら命は助けてやる」

「はぁ……有象無象が群れて気が大きくなったのか。こっちはこのあと予定があるんで遊んでる暇はないんだよな。他をあたってくれ」

「おいおい、舐めてんのか? お前らがテンペストから命からがら逃げて来てんのはわかってんだよ」

 先頭に立つスキンヘッドで強面な男の名前はゴルグ。

 ルミナスオンラインをリリース当初からプレイしておりレベルもアイテムもプレイスキルもそこそこ、ドラゴンラヴィーンにも入ったことがあるし、テンペストドラゴンと対峙したこともある。

 10人以上の連合パーティで挑み、パーティーは一瞬で壊滅、討伐は不可能で逃げるしかなかった。

 その後もいくつかの高難易度のダンジョンに挑むも大した成果はなく、気づけばPKに堕ちていた。


「時間がないって言っただろ、かかってくるなとっととかかってこいよ三流が」

「てめぇら、あいつらをぶち殺せ!! 舐めた口聞いたこと後悔するんだなぁぁ」

 ゴルグが走りだした瞬間だった。


「っ!?」

 光剣が降り注ぐ。

 ゴルグは刃の先がカーブを描いている愛用の大盗賊のダガーで光剣を弾いたが、防げなかった仲間は後ろで倒れていく。

 ただの一撃で半数が死亡した。


「兄貴には指一本触れさせないよ」

 シェアロがゴルグたちを睨みつけ 全員が一歩後ずさりするほどの殺気を放つ。

 しかし、ゴルグだけは殺気ではなく目の前の信じがたい光景に後ずさりをした。

 シェアロは地面から足を浮かせ、空からゴルグたちを見下ろし光剣の切っ先が生き残った人間に向けられている。

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