第45話

「はぁー、はぁー、さみぃぃぃぃ」

「俺らも向こうのテントがいいよなぁ、大体夜番にこんなに人数が必要か?」

「美人もいたし、お酌でもしてほしいぜ」

 フリーの冒険者が三人体制で夜番を回していた。

 会話は薄いテントの中にも聞こえてるし、そうでなくても寒さで快眠は到底難しい。

 アンドロマリウスもテントの中で眼を閉じて休んでいるものの内心では警戒を怠っていない。

 その証拠にターニャに何かあればすぐ起こすと忠告していた。

 

「あのテント数百万するらしいぞ」

「うへぇ、俺らにはほとほと手がとどかねぇぜ」

「夜番に関してはこの時間帯この辺りにモンスターが出現するなんて聞いたことがないけど、払いがいいから仕方ないさ」

「大丈夫だって、何が出ても俺がすぐに倒してやるよ」

「あんたは飲み過ぎだぞ。酔い覚ましのポーションを飲んだ方がいい」

 一人が酒を飲んで酩酊状態で顔を赤らめているのを注意する。

 顔見知りもいればそうじゃない人間だって参加している。

 互いの実力も知らない状態で仕事中に酒を飲んでいれば信頼なんてあったものじゃない。


「あぁ、俺様に文句があるってのか? この辺のモンスターなんぞ酔ってても問題ないっつ〜の」

 酔っ払いの男の言葉に嘘はない。

 ブリュークの雪原の推奨レベルはよほど深くまで進まなければ30〜50と高くない。

 男のレベルは53、それなりのダンジョンを踏破してきている。

 その証こそが両腰にある双剣だ。

 その男が突如、酔っ払っていたのが嘘のように真顔に変わり、立ち上がると両手を柄に置く。


「構えな、とんだ大歓迎だ」

 遅れて二人が闇夜に目を凝らすと無数の影がテントを囲んでいた。


「敵だーーー、起きろーーー、囲まれてるぞ!!」

 酔っ払いに説教していた若い男が声を上げる。

 何事だとテントから冒険者たちが出てくるが、その動きは寝ぼけていてあまりにもノロすぎた。


「グルゥゥゥ、ガァッ!!」

 目を擦っていた冒険者の首が喰い千切られる。

 白い体毛に獰猛な牙を持つ狼の群れ。


「ブリザードウルフの群れだと!? 山にも近づいてない雪原で出るなんて聞いたことないぞ」

「どうでもいいから、戦闘準備をしな。こいつらのレベルは50オーバーだぞ」

 商隊のメンバーの多くは30〜50で固められている。

 それはそんなに深くまで進む予定はなく雪原の推奨レベルに合わせたメンバーになっているからだ。

 唯一の50オーバーの酔っ払いが双剣を抜いて応戦する。

 鮮やかな翡翠色に輝く刃の疾風を振れば斬撃が飛び狼の首を落とす。

 近づいてきた牙を逆手に持った怪しく薄紫色に光る迅雷で防げば雷が迸り狼を焼き殺す。

 疾風迅雷は二刀一対の双剣である。


「くそっ、商会の連中は何してやがる!?」

「このままじゃ……」

「バーンフレア」

 アンドロマリウスの放った魔法で狼が炎に包まれる。

 さらに追撃で魔法を連続発動して狼を処理していく。


「やるじゃないかルーキー!!」

「お前は最強ルーキー……、動画はヤラセじゃなかったんだな」

 押され気味だった冒険者たちがアンドロマリウスと酔っ払い男キングスバレイの活躍でようやく調子を取り戻し始めた。

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