第44話

「さっむぅ!!」

「毎度のことだがお前はそこにいるんだから関係ないだろ」

 見渡す限りが白銀の世界。

 豪雪地帯ブリューク、年中雪が積もりほとんど太陽が顔を見せない極寒のエリアだ。


「ところでこんな何もないとこで何するわけ?」

「酒宴火山で手に入れた地獄の豪華酒を普通に飲めば一瞬で燃え死ぬ。それを中和するアイテムがここにあるんだ」

「へぇ、そうなんだ〜。でもアンドロマリウスが商隊に参加するなんて思わなかったなぁ」

「金欠だし、ちょうど目的地が近かったからな」

 今回参加した商隊はティルトイズマネーというプレイヤーが作ったギルドの商隊になる。

 商会から交渉、採掘、採取などの専門職の五人と商会所属の冒険者が五人、フリーで集められた冒険者が二十人のそこそこ大きな規模の商隊としてこの地にやってきた。

 ティルトイズマネーは商売に使う商品の素材から自分たちで揃えて加工し、プレイヤーに売って稼ぎを出している。


 今回のように大人数で狩りをする場合は他のプレイヤーやギルドと揉めたりするんだが、この商会はかなり強引に狩場を占拠しているという噂も聞く。

 まぁ、ほかにも色々と噂は流れているが所詮噂は噂だし、契約金も悪くなかったので参加することにした。

 前金で15万、町まで五人と集めた素材をきっちりと守り抜いてさらに15万。

 ちゃんと仕事をすれば数日で30万になる。


「今日はこの辺りを拠点とする。すぐに準備に取り掛かれ」

「「はい!!」」

 ティルトイズマネー所属の冒険者である日本刀を腰に差した細身の男が隊長を務めており、商隊は隊長の指示に従って速やかに動かなければいけない。

 といっても俺らフリーの冒険者は戦闘時以外は特にすることはない。

 強いて言うなら周囲の警戒くらいだが、拠点を設置しようとしている場所は開けていて見通しも悪くない。


 一人の男がアイテムボックスからアイテムを取り出すとたちまち豪華で大きなテントがそこにできた。

 中は広々としていて、二階建てになっている。

 暖を取れるのはもちろんのこと調理場やシャワー、トイレといった設備も完備されていて、簡易的な家のようなものだ。

 ただし、商会所属でないと入ることはできなくて、俺たちフリーの冒険者は一人用の小さなテントを自分で張る。

 夜が近づけば寒さが一段と強くなって、ホットポーションを飲む。

 冒険者の中には体を温める効果のある酒をあおる者もいる。

 ルミナスオンラインは現実世界とかなり近い感覚を感じることができ、触覚はもちろん味覚も楽しむことができるようになっている。

 酩酊という状態異常もあり、酒を飲んで酔うこともできる。

 現実世界で酒が楽しめない者がわざわざルミナスオンラインにログインして晩酌するなんてことが日課になっている強者もいる。

 ほかにもダイエットしたいけど食事を楽しみたいとルミナスオンラインで食事を楽しむだけに始めたというプレイヤーもいる。

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