第43話

 山頂から流れ出る溶岩の河はいくつかあってどれもが深く流れが激しい。

 粘度があってどれだけあがいても浮かぶことは難しい。

 その中でも酒宴火山を住処にしていて熱に強いモンスターも絶対に入らない一際大きな河が一本、アンドロマリウスはその最悪の河に飛び込んだ。

 モンスターたちがこの河に近づきすらしないのは先にあげた理由の他にも流れ着く先が問題というのもある。

 流れ着く先と一体どこなのか。

 環境適応エリクサーを飲んだことにより、熱だけでなく呼吸も必要のないアンドロマリウスは一切の抵抗することなく流れに身を任せる。

 ゆらゆらと揺れることおよそ10分、流れが緩やかになっと思った次の瞬間に急行直下。

 流れが止まった溶岩の中からゆっくりと顔を出して周囲を確認する。

 目に映ったのは正真正銘の化け物たちだった。

 麓にいた猿たちでは相手にもならないほどの威圧感を一匹一匹が放っている。

 特に中央で巨大な酒瓶を片手にへべれけになっているモンスターは別格だった。

 酒宴火山の名の通りに化け物たちは座り込んで酒を楽しんでいる。

 ここは地下奥深く、S級以上の鬼たちが跋扈する地獄世界。

 宴会を仕切っているのはSSランクの酒呑童子。

 バレないように行動を開始する。

 バレた瞬間に死ぬ。

 笑いあっていた鬼が急に殴り合いを始めだした。

 アンドロマリウスにとっては僥倖で喧騒の中、酒呑童子の背後に回り込んだ。


「……!?」

 突如、酒呑童子の拳が頭の上をかすめる。

(バ……レてるわけではないよな)


 速すぎて拳が後ろの壁にぶつかるまで気づかなかった。

 もしも狙われていたら死んでいた。

 どうやら酒呑童子は紛れ込んだ黒竜を叩き潰したようだった。

 黒竜を握る手の平から炎が漏れ出る。

 酒呑童子はウェルダンに焼かれた黒竜を頬張り酒を流し込む。

(俺なんて路傍を這う虫けらってことか)

 アンドロマリウスが生き残っているのは弱すぎて認知されていないからだった。

 数トンは入っていそうな酒瓶の元にたどり着き注ぎ口から落ちる酒を一滴回収する。

 それだけで笑うフラスコ一杯に溜まる。


 地獄の業火酒、酒呑童子が好んでよく飲む酒であり、一口飲むだけで生命力が漲る、漲りすぎて心臓から炎が噴き出て全身を焼き尽くすほどの酒だ。

 S+ランクのアイテムを獲得したはいいものの帰るまでが遠足である。

  そこもアンドロマリウスに抜かりはない。

 帰還の書を開く。

 登録した町に戻ることができるが、使い捨てで10万もする上に、発動後3分間身動きが取れなくなる微妙なアイテム。

 10万もかけるなら結界を張れるアイテムなど買って自力で帰った方がいい。

 ただ今の条件下においては非常に有用なアイテム。


 3分後、見慣れた宿に転移する。

「はぁ〜、怖かったよぉ」

「化け物だったな。だがいずれはあいつらを倒すぞ。そうでないとプロなんて無理だからな」

 前世でもSSランク級のモンスターを間近で見たことはなかった。

 近くにいるだけで震えが止まらなかった。

 しかし、プロの中には酒呑童子をソロで倒す存在がいる。

 それも今回俺が使ったような裏道ではなく、正面から地獄に乗り込んで襲いくる鬼どもを蹴散らした上で酒呑童子を正々堂々と倒した。

 あれはまさに伝説だった。

 プロになってそんな奴らと競い合おうとしてるんだから、ビビってる場合じゃない。

 いずれ必ず倒してやるからな。

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