第42話
「はぁ、はぁ、はぁ……つい、たぞ……」
「ご苦労ご苦労」
セイントベアーズが膝をつけて肩で息をしている横で軽やかに馬車から降りる。
一人の脱落もなく辿り着くとは予想外だったな。
一パーティじゃあ厳しかったことを考えるとガルクの判断は正しかったということだ。
絶対ナル契約書が宙に浮いて完了の文字が入る。
「おいっ、俺らはもう帰るからな」
「あぁ、助かったよ」
「忠告しておくぞ、ここは生半可な気持ちで行ける場所じゃない。やはりお前でも無理だ」
「気にしすぎだってポーションもあるし大丈夫さ」
「ここより先はフローズンポーションでもなんともならないぞ。それに暑さだけでなくモンスターもやばいんだ」
「はぁ、そんなツラして面倒見がいいなんてコアラかよ」
「ぶふっ」
重たい空気が少しだけ軽くなる。
「なっ、誰だ笑ったやつは!? まったく舐めた野郎だ。もう何も言わんさ。健闘を祈る」
拳と拳を合わせて互いに背を向ける。
ガルクの言う通り、酒宴火山の難易度は半端じゃない。
適正レベルは80オーバー、やっと30をちょっと超えた程度の俺じゃあお話にならない。
俺でなくても今の時期にレベルが80を超えてるプレイヤーなんていないはず。
誰もが避けるのも当然。
だが、だからこそお宝が眠ってるってわけよ。
前世で酒宴火山が本格的に攻略されようとしたときはいくつものギルドが協定を組んで100人以上で同時に山頂を目指すアタックが行われていた。
頂上に居座る炎竜を討伐したときには一割もプレイヤーが残っていないほどの激戦で画面越しにでもその熱が伝わってきたし、震えたもんだ。
世界が酒宴火山の攻略成功に沸いた瞬間だったはずだった……
「あんどろまりうすぅ、熱いよぉ〜。こんなとこに何しにきたってわけぇ?」
「その中にいれば熱なんて感じないだろ」
「見てるだけで熱いわよ」
一面が溶岩だらけで何かあってもすぐに燃え尽きてしまうため、同じ景色が続いている。
「さっそくお客さんが来たぞ」
「ひぃっ、いくら私のサポートでもあんなのは無理だよぉ〜」
猿たちが山の中腹からぴょんぴょんと跳ねてこちらに向かってくる。
酒宴火山に来るまでにセイントベアーズが相手にしていたモンスターたちも強かったが、それととは比べ物にもならないレベルのモンスターが数十匹の群れをなしている。
ここはそう言う場所なのだ。
レベル60あれば一対一でいい勝負ができるモンスターが雑魚として扱われる。
今の俺では数秒ももたない。
ではどうするか?
とうぜん逃げるに限る。
笑うフラスコをアイテムボックスから取り出して環境適応エリクサーを飲み干す。
これで30分間はあらゆる環境に適応できるようになった。
俺は流れる溶岩を見つめ、意を決してダイブした。
大丈夫だと分かっていても少しの不安がよぎったが、何の問題もなかった。
さすがの猿たちも溶岩には入れない。
楽しい楽しい溶岩遊泳としゃれ込みたいが、時間は限られている。
溶岩の中に身を沈める。
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