第38話
「あと一回、あと一回……」
ラスト一回を数度繰り返しようやく扉は開かれた。
そこにあったのはまさに研究室、机の上に乱雑に置かれた研究資料、綺麗に並べられた液体の入ったビーカー、しかし資料の文字はインクが滲んで読むことができず、ビーカーに入った液体は劣化して奇妙な色をしていた。
それも当然でここは研究所跡地、重要なものは持ち出され、それ以外は放置されている。
何も知らない人間がここにくればゴミばかりのハズレ部屋に見えるかもしれない。
現に難関を突破したのにも関わらずダミーとして設置されて何も得ることができないようなことが多々ある。
それもこれも開発陣の遊び心らしい。
ただし、開発陣がダミーを意図していたとしてもルミナスオンラインでは何が起きるか分からない。
それがこの研究室でも起こっている。
部屋の片隅から瞬きをせずに静かに机の上に並べられたフラスコを見つめ続ける。
あった……
-笑うフラスコ-
Aランク
任意のポーションを伝えるとそのポーションを規定量まで作成してくれる。
ポーションのランクによって作成日数が変動する。
一度作成を始めると途中で変更はできない。
ポーション作成をしていると湧きだすポーションの音が笑っているように聞こえるので笑うフラスコ。
静かにしていれば、クププという短い笑い声が聞こえ、僅かに中に入っている液体の量が増える。
このフラスコ自体ももちろん価値は高い。
なんたって素材もなしにポーションが作れるのだ。
容器を変えればポーション販売だってできる。
弱点としては時間がかかりすぎるとこだろう。
気長に待っているしかない。
それよりも俺が一番欲しかったのはまさに今、この中に入っているポーションだ。
価値にして数十万はするポーションが俺がフラスコを手にした瞬間に完成した。
-環境適応エリクサー-
接種後、30分間あらゆる環境に適応することが可能となる。
これを飲めば毒の海だろうがマグマだろうが泳ぐことができるようになる。
酸素がない空間なら無酸素でも活動ができるようになる。
ポーションの中でも最上級クラスに名づけられるエリクサーを冠するだけのことはある。
これで獣宴火山に行くことができる。
その前に帰るまでが遠足だからなぁ、死んでアイテムをロストすれば笑えない。
どれが落ちても痛手が過ぎる。
最悪ははメルルが待ち伏せしている場合だが……
「やっと帰ってこれた、長かった~~~」
懸念していた待ち伏せもなく無事に町まで帰ってくることができた。
王立研究所跡地に入ったのが深夜、それが今では太陽が真上にある。
つまりは昼過ぎ、陽の光が遮断されていて時間間隔が狂っていたらしい。
想定外、主に俺の記憶違いだが、なんとかなってよかった。
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