第37話
メルルが巨大ゴーレムと激戦を繰り広げているころ、アンドロマリウスは悠々自適に隠し通路を闊歩していた。
「しかし、驚いたな、あんなギミックが眠っていたなんて……」
アンドロマリウスの知識は決して完ぺきではない。
ルミナスオンラインは悪戯好きな開発陣がそれぞれで好き勝手に様々な要素を取り入れ、そしてそれらがランダムに複雑に絡み合って開発陣でさえも把握していない事象が起きる。
だからこそルミナスオンラインは覇権を握ったのだ。
時が進むたびに世界が進化していく。
やりこみ要素は無限でライトユーザーからヘビーユーザーまで楽しめる。
いくら前世の知識があっても、開発陣も把握していないような発見されていない事柄については知る由もないし、発見されていてもそれがアンドロマリウスの耳に届いているとも限らない。
もっといえば、一度耳にしていても忘れていることだって多々ある。
これまで前世の知識を活かして思い通りにプレイしていたアンドロマリウスは絶賛、罠にはまっていた。
「はぁ!? くそっ…………バレット、バーンフレア!!」
襲い掛かってくるスライムを吹き飛ばし、膝に手をついて呼吸を整えてからマナポーションを飲む。
すでにスライムの襲撃は十回を優に超えている。
スライムの耐久度が絶妙に高いせいで魔法一発で倒せない。
ターニャがいないのがここに来て響いていた。
ターニャとは言うと妖精の止まり木の中でスヤスヤと眠っている。
敷地内のプレイヤーの数を参照にして難易度が変わることを危惧して人のいない深夜帯を狙ったのだが、むしろ面倒事に巻き込まれただけだった。
本格的な戦闘なんてする予定もなかたため、ターニャにはお子ちゃまは眠っとけと煽ったため、今更起こす気にはなれない。
アンドロマリウスは古めかしい扉を睨みつける。
中心に配置された蒼玉に手をかざせば数字を入れる画面が浮き出る。
その桁数は八桁。
満を持して数字を入力すると蒼に輝く球が真紅に灯り通路に警戒音が鳴り響く。
壁のは丈夫に取り付けられた通気口から再びスライムが解き放たれた。
アンドロマリウスの記憶力では八桁の数字を正確に覚えておくことができなかった。
特段、記憶力が悪いわけではないが数年前の記憶なんて覚えていると思ってもこんなものである。
むしろ覚えている方ではないだろうか。
うっすらと覚えているからこそ怪しい数字を片っ端から試しているのだ。
幸運なのは何度間違えてもロックがかからないところだ。
ただし、間違えるたびに扉に魔力が吸われて、その魔力を糧にしてスライムが造られている。
アイテムボックス内のマナポーションの数は残り少なくなってきていた。
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