第28話

 ところどころ、ひび割れた塀に囲われた研究所は不気味なくらいの静けさを放っていた。

 わぞわざ深夜を選んだこともあってより雰囲気を醸し出している。

 塀の高さは5メートルちょっと、わざわざ越えなくても門があるのでそこから入ればいい。

 門から研究所までは結構な距離があって一本道の脇には畑やら広場があり、不思議なことに塀の内側は綺麗に整備がされていた。


 門から足を一歩踏み入れたと同時に前方の地面がいくつも隆起する。

 地面から現れたのは3メートルほどの顔から胴体、腕、足と丸々としたフォルムをしている土人形が現れた。

 これが一般的なゴーレムである。

 ゴーレムの特徴は素材によって性質や性能が格段に変わる。

 例えばこのゴーレムは土でできているため、水で濡らせば柔らかくなるし、スコップやドリルといったアイテムを使えば崩しやすい。

 もちろんそこらの地面を掘るのとは訳が違うが、延長線上にあると考えれば問題ない。


「ターニャいくぞ、まずは一番相性の良さそうなこれからだ」

「サポートはあたいにお任せってわけよ」

「スパイラルゲイル!!」

 螺旋状に渦巻く烈風がゴーレムの左腕を吹き飛ばした。

 本当は胴体を狙ったが避けられたわけだ。

 見た目から想像しづらいのと、そもそもゴーレムは主人を守る盾になることが多く、攻撃を避けたりすることが少ないためイメージ的に動きが鈍いと勘違いしてしまうが、ボテっとした見た目で侮るなかれ、ゴーレムは意外と機敏に動けるのだ。


 それとゴーレムのもう一つの大きな特徴。

 というか、戦闘する上で気をつけなければいけないことなのだが。

 腕の吹き飛んだゴーレムは落ちた腕を拾って傷口に当てると土と土がうにゅうにゅと混ざり合って、あら不思議と元通り。

 ゴーレムは傷を負っても適性のある素材があれば自己修復できてしまう。

 土や泥のゴーレムが普及した理由がここにある。

 なんせそこらに素材があるのだからな。

 倒すには胴体に埋められている核を破壊しなければいけない。


 ゴーレムが5体目の前に立ち塞がる。

 門から一歩外に出ればゴーレムたちは追っては来ない。

 あくまでも侵入者を撃退する命令を忠実にこなしているにすぎない。

「逃げるために来たわけじゃないんだよ、まだあと九種類もお披露目できるからなぁ。タイダルウェーブ!!」

 ウェーブショックは自身の足元から対象の相手一体の膝下ほどの波を発生させる魔法だったがランクアップしたタイダルウェーブは複数体同時に攻撃できる上に波の高さはゴーレムを優に超えている。

 動きが早くても面での攻撃ならば避けれないし、水属性の魔法はゴーレムと相性がいい。


「ちっ、それはさすがに想定外だったな、そんでまたかよ」

 タイダルウェーブが相殺された。

 どちらかと言えば吸収に近いがそんなことはどちらでもいい。

 ゴーレムの前に揺蕩う水。

 ゴーレムほど丸々としておらず、全体的に細く縮んだ体型を持つ新手のゴーレムはウォーターゴーレムだ。

 胴体の核が半透明の体のせいで丸見えになっている。

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