第26話
「あっ……」
態勢を低くして完全に俺を見失った妖精王の足元からダークソードを首元に当てて止める。
「どうして殺さないんですか?」
「お前、あいつらに無理やりPKさせられてたのか?」
「そうですけど……」
「じゃあ、もういいよ」
俺は正直冷めていた。
妖精王に圧倒できた喜びなんて皆無だ。
よく考えれば当然だ。
三箇所同時攻撃を受けることができたのもドラゴンスケイル装備一式のおかげなわけで、装備に関して俺の方が平均ランクが高いはず。
なにより最凶最悪のPK、妖精王として君臨するのはここから何年も先のことだ。
10年以上プレイしている俺と長くても半年しかプレイしていない妖精王では相手になるはずがなかった。
そう、俺の前にいるこいつは妖精王ではなく、ただの……
誰だ?
「お前名前は?」
「シェアロです」
冷めた理由は他にもあって憧れの人物がイジメられて嫌々PKをさせられていたなんて事実を知ってしまったら萎えて当然だろう。
「シェアロはまだPKをするのか?」
「いえ、やめます」
「そっか、ならなんも言うことなし」
好きでやっているわけじゃなかったのならなんにも言うことはない。
死んだあいつらが全部悪い。
随分と慣れた手口だったしな。
ただ、あのレベルにしては戦闘がおざなりすぎだ。
パーティに入ったときにみた二人のレベルは28と31だった。
妖精王に寄生してレベリングしたんだろう。
もう二人が装備していた武器も刃狼とエメラルドタイガーを倒さないと獲得できないんだが、それも妖精王に頼ったのか、はたまたPKで手に入れたのか。
どちらにせよ雑魚だったという結論に落ち着く。
俺が一人で勝手に納得して顎に手を当てて頷いているとシェアロが急にこちらに近づいてきて俺の両手を握った。
「ぼくをあなたの舎弟にしてください!!」
「はぁ?」
「兄貴の技に度量に感動しました」
「いやいや、なんで急にそんな話しに」
「分かっています。兄貴にとってぼくは足手まといでしかない。なのでしょうもないPKなんてやめます。兄貴の舎弟として恥ずかしくないように自分自身を徹底的に鍛えることにします。ですから、お願いします!!」
「あっ、はい」
結局押し切られる形で妖精王……じゃなかった、シェアロが舎弟になった。
意味がわからない。
手を握られて前髪の隙間から覗いたキラキラした瞳を見て一瞬でもドキッとしたのはここだけの話だ。
初めて間近で顔をちゃんと見たが噂通りの美形だったな。
何度も殺されたことはあるけど、高速移動してて顔なんてまともに見えないし、攻撃を躱すのに必死だったからな。
それでも最後は殺されるんだけど。
まぁ、あれならファンがついてもおかしくない。
男の俺でもドキッとしたからな。
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