第25話

「ダークソード」

 剣を払いながら近づく。

 前世ならば切り刻まれていてもおかしくない。

 しかし、今の妖精王はまだまだ粗い。

 妖精王について何度も殺されて気付いたことがいくつかある。

 まず、見る者を魅了する剣と舞うような戦闘スタイルは中距離戦を最も得意としている。

 妖精はあくまでも剣を精製しているだけで、コントロールはすべて妖精王自らが行なっているということ。

 接近戦での高速戦闘で四本もの剣を同時に操るのは簡単ではない。

 接近戦でコントロールの甘い剣をぷかぷかと浮かせているだけならむしろ邪魔だし、コントロールするのに集中して隙ができやすい。

 だからこその超接近戦を仕掛ける。


「くっ、剣戟をものともせずに近づいてくるなんて、それにこの尋常じゃない魔法はいつ尽きるんだ」

 俺はクールタイムが開けた順に魔法を次々放って弾幕を作っている。

 実際にはそれぞれのクールタイムや効果の適応時間は異なり、その関係で繊細な調整が必要になるのだが、例え本職でなくても10年もプレイしていると自ずと体が覚えているものだ。

 相手からすればまさに終わることのない怒涛の攻撃が延々と続くのではないかと錯覚するほどに洗練されている。

 前世では戦士を本職としていたが、5年ほどして俺は魔法使いが向いていると気づいた。

 そこで舵を切ればよかったのに、アイテムや費やした時間を捨てきれずにズルズルと戦士で行った結果があれだ。


 しかし、さすがは妖精王、この僅かな時間でも剣の扱いが格段に上達していっている。

 時間が経つほどに攻撃は鋭さを増していく。

 その剣がついに俺を捉え、背中と両脇腹に鈍痛が走る。

 このタイミングで勝負に出てきたか、守りの一本を攻撃に移しての三箇所同時攻撃、どれか当たればいいと思っていたんだろう。

 全てを攻撃に移していないバランス感覚は才能なのか、しかし、努力は才能を凌駕するということを今証明しよう。

 攻撃を受けても俺は前進をやめない。


「なっ……!?」

「攻撃を当てて驚いてどうする」

 驚くのも無理はない。

 レベルの高い戦闘は一種の会話に近い。

 続けていくうちに互いの力量、戦術、手札などが徐々に透けていく、それはまるで自己紹介だ。

 そこからアイテムやスキルの使い方、立ち回りを見て性格や思考が分かる。

 最後には長年連れ添った親友のように言葉がなくても僅かな挙動から心情までも手にとるように分かってくる。

 妖精王が驚いたのはここまで積み上げてきた会話の中でこの攻撃全てが当たるなんてありえないに等しいからだ。

 それはその通りで躱そうと思えば躱せなくはない。

 しかし、それでは避けた後の攻撃で捕まる可能性が非常に高くなってしまうし、そうでなくても戦闘が長引けば長引くほどこちらが不利になっていく。

 あえて攻撃を受けることにより、防御に割かなければいけないリソースを攻撃に回せるし、妖精王の虚をつくことができる。


「ファイヤボール」

 ファイヤボールと剣がぶつかり炎と煙が広がる。

 視界がなくなっても相手の位置は把握している。

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