第24話

「どうした妖精王? 見てるだけか?」

「……? 妖……精王?」

「おっと、まぁそれはいい。なぜ何もせずに傍観してるんだと聞いてるんだ」

 こんなの俺の知っている妖精王じゃない。

 PKではあるものの、整った顔立ち、ミステリアスな雰囲気と舞うような美しい戦闘技術から熱烈なファンがついていた。

 俺もそのうちの一人だった。

 殺されながらも美しいと思ってしまった。

 それが髪の毛はぼさぼさで前髪が目を隠しておどおどとしている。

 これではただの陰キャキノコだ。


 俺は沸々と湧いてくる怒りを込めて倒れていた男にダークソードを突き刺す。

「グフッ……ど、どうして……」

 時間経過でプレイヤーの死体が消えるためいつまでも死んだふりはできない。

 しかし、その時間にはまだ早かった。


「パーティ専用アイテムボックスは他のメンバーに触れないように設定していてもそれは生きている間に限る。死ねば解放されて自由に触れるからな。アイテムありがとな」

「てめぇ、ルーキーの振りして騙したな」

「はなから騙す気満々だったお前らには言われたくねぇよ。自業自得、因果応報ってね」

 こちらを窺う視線、前髪の隙間から僅かに覗く目と目が合う。


「すっ、すごい……」

 妖精王、もといこの時代ではまだその異名はついていないので、ただのシェアロはアンドロマリウスには届かないほどの小さな声を漏らした。

 たまたま妖精を獲得したがために、関わりたくない人間に目をつけられた。

 リアルでも知り合いのため断るに断れずPKをして小遣い稼ぎの片棒を担がせられている。

 本当はもっと自由にプレイしたかった。

 相手をさせられるのはきまって確実に負けないような格下やルーキーだ。

 作業的にプレイヤーをキルするだけの毎日。

 自分はどの程度戦えるのか、負けてもいいから強者と戦ってみたい。

 本人も気づかぬ渇望は心の奥底にしまい込まれている。

 ズルズルとこんな毎日を繰り返すことで将来、最凶最悪なPK、妖精王が誕生することになる。

 しかし、この時代は違った。

 抑圧する存在は目の前で殺され、深い深い海の底に沈んだ渇望に陽を届かせ救い上げようとする男がいる。


「構えろ、妖精王!!」

「……」

 自分のことを妖精王などとよく分からない名前で呼ぶ傲岸不遜な男の眼は本気だった。


「オーヴ、光剣展開」

「あいあいさー、軟弱な都会育ちに俺っちの力を見せつけてやるぜ」

 シェアロの相棒である妖精が現れると、魔力で作られた剣が宙を漂い始める。


「むきぃぃぃ、田舎者のくせに!!」

「ターニャ、集中しろ、簡単にいく相手じゃないぞ」

 ターニャのバフが身体を巡る。

 襲い来る剣は全部で四本、宙に浮いているため可動域など関係なく自由自在にこちらを攻めてくる。

 妖精王を直接攻撃して、剣で防がせて相手の攻撃の手数を減らそうとするが狙いは相手も同じ、一本の剣が右肩から左胴へ、もう一本が左下から右肩へ、間合いも絶妙に違うため避けづらく受けづらい。

 大きく距離を離したいところだが、それでは妖精王の術中にハマることになってしまう。

 剣を自由自在に扱い、距離を詰めてくるから接近戦を望んでいるように見えてしまう。

 しかし、それは大きな勘違いで、距離を取ろうと後方へ移動した瞬間に狙い澄ましたように剣がこちらの命目掛けて飛んでくるのだ。

 何回、妖精王に殺されたと思っているんだ。


「活路は前にありっ!!」

「バカなっ!?」

 迫りくる剣に突っ込んでいく。

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