第13話

 推奨レベル30オーバー、隠しボスにして、この森の真の主、骨積蜘蛛トゥルガル・トゥラン。

 下に積み上げられた骸の数がその名を語る。

 巣を中心にして活動範囲が狭いためウィンドマンティスが表のボスとして威張っているが正直、格が違う。

 しかし、さしたる強敵とも出会ったことのないマンティスは自分が森の主だと証明するように羽根を大きく広げトゥルガルを威嚇する。

 それに対してトゥルガルは特に気にもせずマンティスに糸を飛ばした。

 巨大な鎌を振り回すものの糸は切断できずに一瞬で絡めとられて身動きができない状態になったマンティスはトゥルガルの腹の中に納まる未来しかない。


「ファイヤボール」

 マンティスに近寄り、零距離で火の魔法を放った。


 あれは始まりの街、合成屋でのことだ。

「なっ、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ」

「うっそでしょ〜!?」

「そういうわけで、これで合成を頼む」

 合成屋の主人とターニャが驚いているのを横目に 内心ではよかったと安堵のため息をつきながら、クールな表情を装って精霊の小石と金を追加でカウンターに置く。


 前世で聞いてはいたが、自分が実際に目にしたわけではないので心配だったが、杞憂に終わってくれた。

 実はフェアリーリングはチュートリアル専用の救済措置妖精の応援のスキルがなくなれば、必ずスキルスロットが空になるのだ。

 リリースして半年間しか経っていない今ならスキルスロット空のフェアリーリングには相当な値がつくはず。

 しかし、そこは目先の利益ではなく、長期的視野を持って売りに出すのを我慢する。


 合成は何でもかんでもできるわけではないし、できたとしても相性というものがある。

 相性の悪いアイテム同士の合成はむしろ価値を下げる可能性もある。

 その点、妖精と精霊は密接な関係にあり、それはアイテムでも適用されるので非常に相性がいいといえる。

 フェアリーリングに精霊の小石を合成することで魔法スキルが刻まれた。

 まずマストで欲しかったのは火の魔法スキル。

 属性的にもモンスターへの有効範囲が広く、活用する場面が多い。 


フェアリーリング:下位火精の戯れ

妖精と相性のいい火の下位精霊の加護が籠った指輪。

スキル:ファイヤボール


「やっぱ、虫には火でしょ!!」

 威力倍増になったファイヤボールはマンティスの頭を一撃で吹き飛ばした。

 ここで注目したいのはマンティスを縛っている糸は健在だということだ。

 それだけ俺とトゥルガルの間に力の差があるということ。

 今の俺では到底太刀打ちできない。


 ウィンドマンティスの攻略で頭を潰すのは絶対に最後というものがある。

 一般的なカマキリでもそうなのだが、頭がなくなると狂暴化して攻撃性がマシマシになる。

 マンティスの本気はここからなのだ。

 大きく痙攣し始めたマンティスの鎌が糸を軽々と切り裂いた。

 この状態のマンティスもまた俺では太刀打ちできない。


 トゥルガル、マンティス、そして俺、この中で俺の存在感は薄く、二体ともが俺を無視して戦い始めた。

 その間に移動を開始する。


「おっと、危ない」

 マンティスが見境なく攻撃しているせいであちこちに風の刃が飛んでいる。

 これはさっきまでとは威力が桁違いなので気を付けなければならない。

 が、これも計算の内、風の刃は渓谷に続く道を阻んでいた糸を切り裂いてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る