第5話
「そうだよね、私なんていらない子なんだよね、だってあんたも初心者っぽくないし、救済なんて必要ないよね……」
「ちょっ、ちょっと待った!!」
ここで帰られたら困るんだよ。
「なによ? チュートリアルなんてどうせ面倒なだけだって思ってるんでしょ。スキップしてとっとと始めたいと思ってるんでしょ」
「ちっ、違うって、さっきのは言葉のあやというか、あれで、救済措置の妖精じゃあ呼びづらいし、名前が聞きたかっただけなんだよ」
「名前……? そんなこと初めて言われたかもぉ」
羽をパタパタさせて明らかに喜んでそうだしこの選択は間違ってなかったか。
どうして急に乙女ゲーのような好感度管理が始まるんだよ、とか思うなかれ。
ルミナスオンラインでは種族好感度のコントロールは必須科目なのである。
「でも名前って私ないから、あんたがつけてよ、変だったら帰るからね」
「ターニャなんてどうだろうか?」
「ターニャ……」
「そうだ……」
ここで失敗すれば俺の計画が総崩れになってしまう。
その上、今後のプレイにも少しばかり影響が出る。
「ターニャ、いいねソレッ!! 気に入ったわ。私は今からターニャね」
「あぁ、よろしくなターニャ」
「よろしく、アンドロマリウス」
-インフォメーション-
妖精との信頼が一定値を超えたため妖精の加護が与えられます。
妖精に由来するアイテム、スキルの効果が+0.1パーセント上昇します。
へぇ、こんな序盤で妖精の加護をもらえたのラッキーだな。
効果は微弱だし今だとほとんど意味ないようなもんだが、ないよりはましだ。
「でも、私じゃあアンドロマリウスに教えることってないかもぉ……」
「この精霊の小石ってさ威力が弱くて使えないアイテムだなぁ」
「あっ、そうか、勘違いしないでね、このアイテムは投げて使うこともできるけど、本当の効果はね合成にあるってわけよ、合成することで属性付与できるんだから」
「そうなんだ、知らなかったなあ、ターニャのおかげで助かったよ」
「えぇ、そうかなぁ、えへへへ」
ふっ、チョロいなこの妖精。
しかし、照れながら笑っているターニャを見て一瞬ドキッとしてしまったではないか。
いかんいかん、こんなことをしてる場合ではない。
「よーし、精霊を狩りまくるぞ!!」
「頑張るんだからね〜、5匹倒せばゲートを潜れるんだからね」
それから数時間後。
「アンドロマリウスぅ、もうゲート潜れるよぉぉ」
ふっ、何匹狩ったのかなんて数えてない。
「まぁとりあえず今日は休むことにするよ」
前世の経験で休憩の重要性を理解している俺は食事と睡眠を大事にすることにしている。
「そうなんだ、わかった〜、バイバーイ」
「また明日な」
「うん、また明日ね」
ログアウトしてカプセルから出る。
ゲームに課金を始めて沼にハマる前の俺の部屋。
ごくごく一般的なワンルームマンションも10年後と比べれば極楽に感じる。
大丈夫、焦らなくても俺には10年先までの知識がある。
ゲームに金をかけるのではなく、ゲームで金を稼ぐ。
今の俺なら十分に可能なはずだ。
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