第6話

「おはよう、ターニャ」

「おはよう〜」

 眠たそうに目を擦りながらターニャが現れて定位置の頭の上にとまる。


「今日こそは1階に行くんでしょお〜、これ私からのプレゼントだからね〜」

 指輪を貰った。

 これが救済措置をオフにしていない理由である。


-フェアリーリング-

救済措置の妖精の加護が込められた指輪。

スキル:救済措置の妖精の応援

全ステータスが1%上昇する。


 チュートリアルの塔、三日目に突入すると本来は中盤以降でしか入手できないアイテムが手に入ってしまうのだ。

 リリースから半年だとこのアイテムに辿り着いているプレイヤーはほんの一握りしかいないはず。


「ありがとう、ターニャ」

「別にいいのよこれくらいは、ほら早く1階へ行きましょうよ」

「いや、まだここで精霊狩りをしていくよ」

「えぇ〜〜〜」

 悲痛な叫びを無視してロングソードを振り回す。

 ロングソードを選んだのは狩りの効率がいいからだ。

 上手くいけば一度振るだけで数匹同時に下位精霊を倒すことができる。

 他の武器に比べて僅か数秒の違いしか生まれないが、地理も積もれば山となる。

 ここで何百匹と狩ることを考えれば効率を重視するのは当然のことだ。

 どんなに周りから変な目で見られても、優しい言葉をかけられても、耳元で小言を呟かれても、俺が止まることはない。


「精霊がいっぴき……精霊がにひき……精霊がさんひき……一つ飛ばして妖精がわたし……」

 チュートリアルの塔、七日目でターニャの精神も崩壊寸前、というか崩壊してる。

 手には指輪が五つ嵌められている。

 三日目から一日経過するごとにフェアリーリングが渡された。

 スキルはどれも同じで現在の俺は全ステータスが5%上昇している。

 さらにレベルも10まで上がり元々の基礎ステータスも上がっているので初心者の域は大幅に超えてしまっていた。


「うわっ、見て見て、本当にあの人いたんだ」

「てかっ、何やってんだろ」

「あれでしょ、動画受けを狙った縛りプレイとかじゃないのか」

 チュートリアルの塔から何日も出ずに狂ったように精霊を狩る変人として一躍有名人の仲間入りしてしまった。

 まぁ、ゆくゆくは動画配信したいと思ってるし知名度があるのは悪いことではない。

 ただ誤解があるようだが、俺が七日もここにいるのは決して縛りプレイなどではない。

 目的がありそれを遂行するために最も効率化された最適行動を取っているに過ぎない。

 俺はただでさえ半年遅れた状態からスタートしている。

 プロになるためにもいち早くランカーたちに追いつかなければならい。

 だからといって闇雲に突っ走ればいいってもんじゃあない。

 木こりのジレンマ、伐採しなければいけない木々をひたすらに切るのではなく、一度斧を研ぐことが重要であると説いたお話。

 何事も目先のことではなく準備が大事なのである。


「まぁ、何も知らなければ無意味に見えても仕方ないけどな。ターニャ、いい加減に起きろ。1階にいくぞ」

「えっ!? とうとう行くってわけね、少し寂しくなっちゃうなぁ……」

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