第2話 王者の風格

第2話 王者の風格 勇将の元に弱兵なし

V.2.4

 ① 王者の風格

 俗に相性の良いことを表現して「梅に鶯、松に鶴、蝶に牡丹」、そして中国では「龍に雲、虎に風」と言うそうです。

「龍は雲を起こし、虎は風に嘯(うそぶ)く」

 竹林に風が吹くと虎が咆哮する、のが定番ですが、風がなくても、虎の風格に変わりはない。


 2019年府立の決勝戦、大将戦で敗れたキャプテンがその瞬間「膝をガクッとついて」という姿は、ステレオタイプでした。

 しかし、今大会、明治は中央に決勝戦で破れ、やはり優勝を逃しましたが、チームとしての風格とキャプテンの人徳は、他を圧倒していました。


 ○ 風格

 試合場(の中のマット脇の部分)に入るとき・出るとき、全員がきちっと礼をする。

 他の大学は、試合場の入り口で礼はされているのでしょうが、ライブカメラで見る範囲では、マットの脇への出入の時まできちっと礼をしているのは、明治の選手と監督・コーチ陣だけでした。

 若いときは無法・無礼・乱暴者であった自分が、こんなことを(偉そうに)言うのは気がひけるのですが、しかし、なんと言われようと、明治の選手たちの礼をする姿はきちっとしていて「見ていて気持ちがいい」「風格を感じさせる」。


 ○ 本当に全員の気合が入っている

 本当に怪我をしたわけでもないのに、痛がって試合を中断させるような選手が一人もいなかった。また、監督が試合中、選手に話しかけるなんてことはしない。


 監督・コーチ・選手全員が、淡々と礼儀正しく、それでいながら、他のどこよりも「熱い心」を見せてくれました。

 きっちり練習し、試合当日も準備運動をしっかりとし、気合が入っているので、動きも(たぶん)練習通りで、軽快で無駄がない。だから、見ていてスカッとする、気持ちがいい。その力(パワー)や拳技以上に、自分の力を出し切ろうという「ガッツを見れる」のが、明治の拳法。


 たとえば、小兵のずんぐりむっくりの選手ですが、ガンガン、相手にタックルしたり面の真上から打つ面突きをしたりと、とにかく三分間暴れまくり。やる方は大変でしょうが、見ていてこれほど楽しい・心が励起される拳法はない。ジジイの私まで心が熱くなってくる。

 やはり、本気でぶん殴り・蹴って投げる日本拳法は、見た目以上に底から伝わってくる熱い心・ガッツを見れることに、その真価があるといえるのではないでしょうか。(この意味で、今大会における青学男子と女子のガッツも物凄かった。今まで青学女子の試合は、You-Tubeで何本か拝見していたのですが、男子もこんなに元気がいいとは、楽しい驚きでした。)


 ○.徳の日本拳法「明治の木村」

  どんな相手に対してでも

 ○ 全力で戦う

 ○ 手加減しない

 ○ 常に大将戦に出る(一回だけ、出場せず?)

 他の大学に隠し立てせずに、これこそ「正しい日本拳法」というものを見せて(教えて)くれた。彼の素晴らしい拳技とガッツを、惜しみなく見せてくれた。

 府立が目標だから技を隠しておく、なんてことは微塵もなし。淡々と、正々堂々と公明正大に「これが日本拳法だ」という、正しい姿をすべての人に開示してくれました。

 自分自身の公明正大な行動が、結果として人に教える・人を感化することになる。これこそ「徳」というもの。


 誰しも、敵に勝つ・自分に勝つ・チームで勝つために必死に戦うのですが、「明治」には「それプラス」がある。

「山高きがゆえに尊からず。木あるを以て尊しとなす」

「山は高きに在らず、僊(せん)あれば即ち名あり」

 山はその高さによって尊ばれはしない。僊、即ち仙人が住んでいれば(徳が備わっていれば)こそ、その名も高くなる。

 あるいは、高い(強い)だけではない、徳があってこそ山として尊敬・畏敬・敬服される。目に見える形而下だけではない。人の心に訴える・働きかけるような形而上的ちから(僊)が備わって初めて、そこに名が生じようというもの。


 ○ 中央の拳法

 私自身の40年前の記憶の中では「中央の小兵の選手の芸術的な胴抜き」というのが印象に強い。

 以前、ビデオで拝見したのは、2006年の東日本リーグ戦最終戦(対明治)における、先鋒の高野選手や、副将の安武選手のような方々です。

 今回、その復活かと思われるような選手が何人かいらしたので、伝統が継承されている、という安心感・期待感が沸きました。


 2019年の7月に東京で行われた大会の2回戦で明治を破り、その年の12月の府立(全日)でも明治を破って優勝したあの龍谷大学を、2019年7月の大会における決勝戦では、中央大学が物凄いワイルドな戦いぶりで圧倒しました。

 2019年のワイルドさと伝統の胴抜きがセットになった今年の中央は、今度の府立(全日)では、どんな暴れ方を見せてくれるのでしょうか。

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