備えあれば
僕、
(すぅ……すぅ……)
今日は大学が休みの土曜日で、ここは僕の住んでいる家の僕の部屋の僕が毎日寝ているベッドの上なわけで、僕の口でも鼻でもない所から寝息が聞こえてくるのは可笑しなことなわけで、ましてや白くて細い腕と足が僕の体に乗っかってるのは有り得ないわけで。
「ふぁ……ふあぁぁ……ん?おはよぉ……大地ぃ……」
「おはよう愛莉。何やってんの?」
「何って……見ての通り……大地に抱き付いて寝てたの……」
うん。
確かに見ての通りだね。
「朝から暑いんだけど。」
「いいじゃん……朝起きたら彼女が抱き付いてたなんて……これ以上の幼馴染系鉄板萌えシチュエーションはないでしょぉ……」
はい。
夢なら醒めるなと脳内に住む小坊主達が全力で祈祷中です。
「でも……確かに
かっ!噛んだけど可愛っ!
「あははっ……噛んじゃった……あ・つ・い……だね……」
妙なところで冷静になってる。
むくっと上体を起こした愛莉が僕の顔を横からじっと見てる。
僕は目玉だけ動かして愛莉の方を見た。
「ねぇ。」
「ん?」
「何もしないの?」
「え?」
この状況で『何』と言えば『ナニ』の事だよね?
『ナニもしない』ってアレのことしかないよね?
「折角の休みなのに何処にも行かずに部屋でダラダラするの?」
はい違った。
何処か行きたいからさっさと起きろって事だった。
あ、けど……もし『ダラダラする』って言ったらどんな反応するのか見てみたくなっちゃった。
「うん。別に用事も無いしのんびりしようかと思う。」
さぁ、どう出る?
「分かった。じゃあ今日はここでのんびりしよう。」
あるぇ?
いつもの愛莉なら『却下!』とか言って無理矢理起こして着替えさせて飯食わせて外に飛び出す筈なのに。
まぁ、いつも引っ張り回されてるからたまには僕の意見を聞き入れようって感じなのかな?
「取り敢えず目が覚めてお腹空いたな。何か下から持って来ようか。」
「ダメ。」
「え?」
ダメ?
何が?
「ここでのんびりするんだよ。今日は何処にも行かない。」
「いやいや。そういう意味じゃなくて”家からは出ずに”って事でさ。いくらのんびりするって言ってもお腹は空くじゃん?」
愛莉は後ろに手を伸ばして何かガサガサ音を立ててる。
有料になったビニール袋が擦れる音。
「じゃんっ。」
僕の目の前にぶら下げられたビニール袋。
近所のスーパーのやつだ。
「食材は買ってあるから大丈夫。」
「はい?」
「食パンに卵にベーコンにチーズ、お米に肉に野菜に……何だって出来るよ。」
「えっと……」
「ん?あぁ、ガスコンロも持って来てるから心配ないよ。」
そうじゃない。
てか何でそんなに用意周到なの?
「朝はホットサンドでいい?飲み物はココアだよね?」
「お、おぅ……随分準備万端なんだね。」
「だっていつどんな災害が襲って来るか分からないじゃない。常に備えはしておくべきだよ。」
それにしたって備えすぎだろ。
「もしも……」
「ん?」
「もしも……本当にすっごい地震とかすんごい台風とかきて……生きるか死ぬかって状況になっても……大地だけは守るから……」
いやいや!
それ男である僕が言うべき台詞っ!
それを真顔で僕の顔ガン見しながら言わないで!
今以上に惚れちゃうからっ!
結局、トイレ以外は部屋に籠ってガスコンロで愛莉の手料理を楽しむ一日を過ごしたんだ。
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