僕、弓波ゆみなみ大地だいちの幼馴染、花坂はなさか愛莉あいりは可愛らしい見た目で気が強くて僕をいつも振り回してくるけど料理上手で人を喜ばせるのが好きで勉強が凄く出来て、そして僕の彼女なんだ。




 愛莉のお陰もあって無事大学には合格出来た。

 勿論、愛莉も難無く合格。

 僕と愛莉は引き続き一緒に過ごせると思うと一安心だ。


 でも、全く心配が無いわけじゃない。

 高校ならある程度僕と愛莉が付き合っている事を知っている人も居て、ある程度愛莉の性格を知っている人も居たから、軽い気持ちでちょっかいを出して来るような輩も居なかったが、大学ではそうはいかないだろう。

 何度も言うように、愛莉は可愛い。

 スタイルもいい。

 言い寄って来る男は高校時代とは比べ物にならないくらい増えるだろう。

 そんな連中から、僕は愛莉を守っていかなきゃならない。




「キミ可愛いねぇ。なんて名前?どこの学科?サークルどこ入るか決めた?」




 早速、愛莉がキャンパスでナンパされてた。

 学生会館の入った建物の下の掲示板の前で、茶髪にピアスの見るからにチャラい男二人に挟まれてナンパされてた。

 僕の苦手な人種だ。

 苦手だけど愛莉を守らなきゃ。

 そう覚悟を決めて掲示板の方へと足を一歩踏み出した。




「あっ!大地ぃ!」




 僕の姿を見た愛莉は、チャラ男の間から右手を挙げてヒラヒラさせて僕の名前を呼びながら僕の方へとやって来る。

 当然、二人のチャラ男も愛莉が声を掛けた僕の方に振り返って僕を見る。

 僕を見ると同時に『何だオマエ?』みたいな目付きで睨まれた。




「何してたの?」




 目の前に来た愛莉に出来るだけ普段通りに声を掛けるが、チャラ男の視線が痛くて少し声が上ずってしまった。




「特に何も。」




 僕の目線がちらっとチャラ男の方に動く。

 二人共、まるで親の仇でも見るような目で僕を見ている。

 愛莉は肩越しに斜め後ろに顔を向けて口角を上げていた。




「掲示板見ながら大地を待っていて品の無いナンパに遭ってただけよ。」




 『品の無いナンパ』と言われたチャラ男二人は更に怒りの目付きになって僕を睨み続けていたが、やがて聞き取れない程の小声の捨て台詞を吐いて去っていった。

 背中でそれを感じたのか、愛莉は小さく溜息を漏らした。




「えっと……遅くなってごめん。」


「ホントだよ。あのままナンパされ続けてたらどうなってたか……」




 多分、どうもなってない。

 いや、チャラ男二人がどうかなっていたかもしれない。




「彼女を待たせた罰としてちょっと付き合いなさい。」




 トイレ行ってただけじゃんよ。

 謝りはしたけどそんなに長かったわけじゃないよ?




「何処行くの?」


「黙って着いて来る。」


「あ、はい。」




 そして連れて来られたのは大学と最寄り駅のちょうど中間地点にある公園。

 公園に入ると、愛莉は僕の腕に抱き付くようにしてその柔らかい膨らみを上腕三頭筋に押し付けてきた。




「え?な、何?」


「何って、恋人が腕を組んで公園を散歩するのがそんなに不思議?」


「い、いや、そんなことはないよ。」


「これは”彼女を待たせた罰”なんだからね。」




 罰なんだ。

 僕にとってはご褒美にも等しいんだけど。

 思わず笑みが零れてしまう。

 それに気付いた愛莉が横目で僕の方を見た。




「別にデートとかじゃないからね。たまには歩きたくなっただけなんだから。ただの散歩よ。」




 デートだったんだ。

 何このソフトツンデレは。

 改めて愛莉が愛おしく思ってしまうじゃないの。

 僕は緩む頬を悟られないよう、散歩道の両側に繁る葉桜を見上げながら歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る