買い物
僕、
愛莉の超絶品チャーハンを堪能して、昼下がりのひと時を部屋でのんびり過ごしていた時だった。
「あれ?その恰好で行くの?」
「え?行く?何処に?」
「何処って買い物に決まってるでしょ。昼食後は買い物。常識でしょ?」
知らんかった。
食後はゆったり過ごすものだと思っていたし今までもそうして生きてきたけど。
愛莉だって昼食摂った後にのんびり過ごしてるのを何度も見たけど。
「さすがに100%部屋着で出掛けるのってどうかと思うよ。」
そりゃ出掛ける気なんか全く無かったからね。
昼食後に買い物行くのが常識だなんて今さっき知ったばかりだからね。
部屋着部屋着って言うけど、これはほぼ寝間着だ。
でもチャーハンご馳走になったし、何より僕は愛莉の事が好きだから、愛莉と買い物に出掛けるのが嫌なわけないんだ。
「じゃあ着替えるからちょっとだけ下で待ってて。」
「別にそのままでもいいのに。」
あれだけ言われてこのまま出掛けられるほど僕の神経は図太くないよ。
愛莉が階段を降りて行ったのを確認して僕は部屋着を脱いでトレーナーとジーパンに着替えた。
「お待たせ。それで買い物って何買いに行くの?」
「そうね……まずは服屋さん。」
『まずは』ってことは複数箇所行くつもりだね。
まぁ、愛莉の買い物って男の僕が言うのも何だけど、潔いというか、目的の物を手に取った瞬間にレジに向かうような買い物だからあちこち振り回される心配が無くていいんだ。
尤も、こうして休日に愛莉と一緒に出掛けるなんて、僕にとったらデートみたいなもので嬉しい限りなのでもっとゆっくりでもいいくらい。
◇◇◇◇◇
相変わらず愛莉の足は速い。
身長は僕の方が10cmほど高いので着いて行けないわけじゃないけど、10分も歩けば僕の額にも汗が滲むくらいだ。
なのに愛莉はというと、顔色一つ変えずに真っ直ぐ前を見据えて目的地に向かって一直線に歩いているのだから不思議なもんだ。
やって来たのは某衣料量販店。
部屋着も含め、僕がいつもお世話になっている店。
愛莉の普段着ってどこかお洒落な感じがするからこんな店で服を買うなんて想像出来ないんだけど。
店内に入った愛莉は、まるで自分の家のようにTシャツの置かれた棚の前まで迷う事無く辿り着く。
僕は入口でしっかり買い物かごを持たされたんだけど。
「これいいね。あ、こっちの方がいいか。いや、こっち……やっぱこっちか。」
愛莉はいくつかのTシャツを棚から出しては広げ、傍に居た店員さんが目を丸くするくらいの手際で綺麗に畳んでは元の位置に戻し、また別のTシャツを広げて……をブツブツ言いながら繰り返している。
同じ事をズボンのコーナーでも繰り広げ、店内に入って僅か10分足らず。
「以上。貸して。」
と言って僕が持っていた買い物かごを取ると、真っ直ぐレジへと向かって行った。
会計を終えて店の外に出ると、今さっき購入したTシャツとズボンの入った袋を僕に押し付けてきた。
まぁ、荷物を持つくらい何でもないから素直に受け取るけど。
「じゃあ一旦帰ろうか。」
「え?もう帰るの?てか”一旦”?」
「うん。帰ってそれに着替えてからまた出掛けるの。」
「あ、はい。」
今さっき買ったばかりのものに着替えるって……まぁ別にいいけどさ。
愛莉の今着てる服だって結構お洒落だと思うんだけど、女の子の心理ってやつなのかな?
僕にはよく分からないよ。
◇◇◇◇◇
『一旦』家に帰ってきた僕と愛莉。
愛莉まで僕の家に入って来るのは何でかな?
着替えるなら自分の部屋の方がいいと思うんだけど。
脱いだ服だってあるだろうし。
「はい、じゃあ着替えて。」
「着替えて?」
「その服に着替えて。」
「僕が?」
「私なわけないでしょ。大地の服買ったんだから。」
「え?」
僕の服だったんだ。
愛莉が服を選んでる時、やけに僕好みなデザインを選ぶと思ってて、愛莉と好みが一緒って何かいいなぁ、なんて思ってたんだけど僕の服だったんだ。
それにしても何で愛莉が僕の服買ってくれたの?
今日僕の誕生日じゃないよ?
何かの記念日でもないよ?
何で?
「何で僕の服買ってくれたの?」
「何か文句でもあるの?」
「いえ、ありません。」
「じゃあ何でもいいじゃん。さっさと着替える。次行く時間無くなるでしょ。」
「あ、はい。」
何でもない時にサプライズ的なプレゼント。
愛莉ってこういう事をして来る子なんだよね。
僕が愛莉の事を好きになる理由、分かってもらえると思うんだ。
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