第42話 最終決戦②

「師匠らさっきまでとは明らかに雰囲気が違います。気をつけて!」


「言われなくてもわかってるよ!」


 俺は爆発スキルを発動しまくるが、やはりバリアに弾かれてしまい、魔王にダメージを与えることはできない。いったいどうすれば良いんだよ。もうこれ詰みじゃないのか?


「絶対殺すビーム!」


 真っ黒の光線が俺に向かって一直線に飛んでくる。このビームは当たったら不味いと本能的に理解できる。俺はその場にしゃがみ込んで回避する。


「もう一丁! 絶対殺すビーム!」


 二発目のビームは大きくジャンプして躱した。


「絶対殺すビームって何だよ! ガキみたいなネーミングセンスの技だなあ!」


「その名の通り、相手を絶対に殺すビームよ! ダメージを与えるんじゃなくて、体力をゼロにする効果だから、どれだけ高耐久だろうと関係なく一撃で殺せるの!」


 本当にガキの妄想を体現したみたいな技だな。だが、そんなふざけた技でも殺傷力は確かだ。さっきまでは遊んでいただけだったんだな。


「こんちくしょう!」


 やけくそ気味に爆発スキルを連打するも、やはりバリアに防がれてしまう。


「無駄よ、無駄よ! 絶対殺すビーム! 絶対殺すビーム!」


 素早い動きでビームをスレスレで避ける。相手の攻撃のタイミングに合わせて、こちらからも攻撃を繰り出すも、すぐにバリアを張り直されて防がれてしまう。

 こちらが攻撃されてばかりで、反撃の機会が全く無い。


「ハァハァ……」


「息が上がってきているわね。あなたの人生もここまでよ! 絶対殺すビーム!」


 俺は横に跳んでビームを回避する。しかし、着地の瞬間に足をひねってしまう。


「うわぁっ!?」


 どうやら捻挫してしまったようだ。痛みのあまり立っていることすら困難になり、そのまま地面に倒れこんでしまった。


「くそっ! もはやこれまでか……」


「喰らいなさい! 絶対殺すビーム!」


 俺は覚悟を決めて目を閉じた。今までの人生のビジョンが走馬灯のように流れていく。色々な奴に嫌われてきたけど、何だかんだ良い人生だったな。できることなら、もう少し生きてみたかった。

 ああ、死んだ……って、あれ? いつまで経っても俺にビームが命中する様子は無い。

 俺は顔を上げて、何が起こっているのかを確認する。


「ジェ……ジェシカ!?」


「私が師匠を守るんです!」


 倒れた俺の前にジェシカが立ちはだかり、魔王の放ったビームを一身に受ける。そして、その場にバタンと崩れ落ちた。


「ジェシカ!」


 俺は捻挫の痛みも忘れて立ち上がると、倒れたジェシカにかけよった。


「ジェシカ! ジェシカ……」


 俺が弱いからだ。俺が魔王相手に苦戦していたばっかりにジェシカは俺を庇って死んだ。修行がまだまだ足りなかった。

 魔王に対する憎しみよりも、弱い自分に対する憎しみの方が大きい。俺のことを師匠と呼んで、唯一慕ってくれた女の子を俺は死なせてしまった。本当、人間のクズだよな。


「畜生……畜生!」


 拳を地面に叩きつける。何度も何度も叩きつける。無力な自分を痛めつけるように。しかし、何故か痛みは全く感じない。感情が爆発して痛覚が麻痺してしまったのだろう。


「し、師匠……」


「ジェシカ? 生きてるのか!」


「はい。何故だかわかりませんが、死んでないです。自分も死んだと思いましたが、ちゃんと生きてます」


「良かった……本当に良かった!」


 俺は思わずジェシカの体をギュッと抱きしめる。普段なら照れくさくて絶対にやらないような行為だが、ジェシカが生きていた喜びが恥ずかしさに勝ったのだ。

 俺にとってジェシカはただのパーティメンバー以上の存在だ。まるで家族のような、本当に本当に大切な存在なんだ。

 俺はこいつを失いたくない。だから全力で守ってやらないとな。こんなところで魔王にやられている場合ではない。


「師匠、泣いてるんですか?」


「ああ、泣いてるよ! 心配かけやがって!」


「うわ〜ん! 私なんかを心配してくれてありがとうございます!」


 抱き合って泣いている俺達の姿を魔王は苦虫を噛み潰したような表情で見つめていた。



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