第43話 最終決戦③
「私の絶対殺すビームを受けて、生きているなんてどういうこと? もう一発、絶対殺すビーム!」
魔王が放ったビームが再びジェシカに直撃する。
「おい、大丈夫か!?」
「はい、何ともありません。痛くも痒くもないですね」
「嘘でしょ!? どうして効かないの?」
「魔王さんよ〜。さては絶対殺すビームなんてのはただのハッタリなんだな? 本当は何の効果も無い見かけだけの光線なんだろ」
「そんなこと無いわよ! 私はこのビームで何人もの冒険者を葬っているもの!」
この反応を見る限り、嘘はついていないっぽいな。絶対殺すビームに当たると絶対に死ぬというのは本当らしい。ならば、どうしてジェシカはピンピンしてられるんだ?
「もしかしてあなた、テンダイの秘薬を飲んだわね?」
「テンダイ……あー、昔お父さんが私にくれた薬がそんな名前だったかもしれません」
このクソ雑魚ジェシカのレベルを90まで押し上げた秘薬のことか。相当すごい代物なんだろうな。だが、その秘薬とビームで死なないことに何の関係があるんだ?
「テンダイの秘薬はレベルを急上昇させる以外にも、もう一つ効能があるのよ」
「もう一つの効能……ですか?」
「それは不老不死よ!」
「ええ!?」
不老不死だと? そんなことが有り得るわけ……いや、待てよ。ジェシカが不老不死だとするなら色々なことの説明がつくな。
絶対殺すビームで死なないのも不老不死だからだし、大人なのにロリっぽい見た目なのも不老不死だから。
魔王の言っていることは本当なのか。
「師匠! 私、不老不死なんですって!」
「よし、ならば俺の盾になれ!」
「あいあいさー!」
ジェシカを盾にして攻撃を防いでいる間に、魔王を倒す方法を考えよう。不老不死ならばあのビームを何度喰らっても大丈夫なはずだ。
「ヘルフレイム!」
「うぎゃぁぁぁ!」
魔王が放った炎の魔法がジェシカに命中し、大きな悲鳴があがる。
「不老不死だろうと人並みの痛覚はあるはずよ。たくさん痛めつけて肉体より先に精神を破壊してあげる」
例え死ななくても、死に値するような痛みを受けるのはとんでもない苦痛だろう。ジェシカを盾にするわけにはいかないな。
俺はジェシカを庇うようにして前に躍り出た。
「おい、ジェシカ。俺が奴の攻撃を引きつけている間に、打開策を考えられるか?」
「わかりました!」
なるべく派手な攻撃で魔王の注意をこっちに逸らそう。俺は即座に詠唱を済ませると、魔法を放った。
「アルティメットウィートフラワー!」
「ゲフッ! ゲフッ! 何なの、この粉は?」
莫大な量の小麦粉が魔王に降りかかる。間違えて吸い込んでしまい、咽ている。
「魔王さん、問題です! 粉に炎をぶち込むとどうなるでしょう?」
「えっと……粉塵爆発?」
「正解、賞品を差し上げましょう! ファイアーボール!」
小麦粉の霧に炎の球を放つと大規模な粉塵爆発が起こる。俺は慌てて、ジェシカに覆いかぶさるようにして伏せる。
不老不死だとわかっていても本能的に守っちゃうんだよな。このロリっ娘は異常に庇護欲を掻き立ててくる。
「残念だけど効かないわよ」
だよな〜。まあ粉塵爆発で倒せるなんて甘い考えはとっくに捨ててるぜ。あくまでも目的は時間稼ぎだ。
ジェシカは馬鹿だけど、こういう時にはきっと良いアイデアを出してくれるはずだ。それまで俺は耐え続ける。
「だけど、なかなか面白い戦い方をするじゃない。確かうちの幹部の漆黒のダークネスもそれでやられたのよね」
「あー、そうそう。ずっと聞きたかったんだけどさ、漆黒のダークネスとか煉獄のインフェルノとか、お前の部下達はどうしてふざけた名前のばっかりなんだ?」
「知らないわよ! 求人募集を出したら変な名前の魔族ばかりが面接に来たの!」
「へえ〜、魔王軍にも面接とかあるんだ。ちなみに氷属性使いばっかりなのはどうしてだ?」
「だから、私に聞かれても困るんだって! うちの人事担当がちょっとおかしいのよ!」
「氷属性使いばかりを採用している奴の正体はここの人事担当だったのか。軍の編成に偏りが出るから、そいつクビにした方が良いと思うぞ」
「そうはいかないのよ! 一度雇った従業員を下手に解雇すると訴えられちゃうから」
「魔王も楽じゃないんだな」
「そうよ。大変なこといっぱいなんだから!」
会話を引き延ばして時間を稼ぐ作戦が上手くいっているな。この調子でもっと会話を長引かせるぞ。
「良かったら相談に乗ろうか? 人に話すと楽になるぜ」
「本当? 嬉しいわ……って、もうその手には乗らないわよ! おバカ!」
「乗りそうになってたけどな」
「私の純粋な心を弄ぶなんて、本当に最低!」
「人を殺しまくってる魔王の癖に純粋って……」
「例え人を殺しても乙女は常に純粋なの!」
「あ、そうなんだ……」
「師匠、勝てる方法を思いつきました!」
よっしゃ! 一生懸命時間を稼いだ甲斐があった。俺の相棒なら必ずやってくれると思ったぜ。
「師匠、ちょっとどいててください」
「ああ、わかった」
弱いのに自分から前に出ていくなんて何が狙いだ? まあ死ぬことはないから、とりあえずあいつのやりたいようにやらせてやるか。
「魔王さん! 私はレベル90超えの勇者です!」
「テンダイの秘薬を飲んだなら、それくらいのレベルがあってもおかしくないわね」
「私がこの拳でパンチすれば、あなたなんて一発で倒せちゃいますよ!」
「どんなに強い攻撃だって、このバリアがあれば怖くないわ」
「それはどうでしょうか?」
ジェシカは大きく足を屈伸させると、魔王に向かって飛びかかる。そして勢いよく右の拳を突き出した。
「デュクシ!」
おいおい、「デュクシ!」って言いながら殴るなんてクソガキのすることだぞ。そんなので、あの強力なバリアが破れるわけが……
「わ、私のバリアが……破られた!?」
破れるのかよ! 俺は驚きのあまり腰を抜かしてしまった。
「ジェシカ、お前何したんだ?」
「彼女のスキルを見抜いたんですよ」
「魔王のスキル?」
「はい。恐らく、魔王さんのスキルは『子供の妄想が本当になる』ですよね? 私、Sランクスキル図鑑で読んだことがあるんです」
「そ、その通りよ……」
確かにどんな攻撃も効かないバリアとか、絶対殺すビームとか子供の頃に誰しも妄想するもんな。
「魔王のスキルのことはよくわかった。でもよ、あのバリアはどうやって破ったんだ?」
「簡単ですよ。子供の妄想には子供の妄想で対抗すれば良いんです!」
「え〜っと?」
「自分の子供の頃を思い出してください。『デュクシ!』って言いながら繰り出すパンチは無敵扱いだったでしょ?」
「なるほど。無敵のバリアは無敵のパンチで破れば良いってことか。魔王のスキルを逆手に取った素晴らしい作戦だな」
「そういうことです!」
俺の期待通り、しっかりと打開策を考えてくれたな。俺には、こんな作戦は思いつかなかった。ジェシカを相棒に選んで良かったとつくづく思うよ。
「張り直せない! 破られたバリアが張り直せないわ!」
「当たり前ですよ! 無敵のパンチで破ったんですから!」
「何よ、それ! むちゃくちゃだわ!」
「そうです! 子供の脳内は常にむちゃくちゃです!」
「あぁぁぁぁー!」
魔王の奴、発狂してやがる。まさか自分が負けることになるとは思ってもいなかったのだろう。
「師匠、最後は格好良く決めてください!」
「ああ! 俺の十八番、爆発スキルでフィナーレを飾ってやる!」
俺はアイマスクを外して、地面に項垂れている魔王を凝視する。
「うわぁぁぁぁ!」
爆発が起こり、悲鳴が上がる。魔王の姿は跡形もなく消え去っていた。
「勝った……勝ったぞ!」
「やりましたね師匠!」
俺達は息のあったハイタッチを交わす。
「お前がいたから勝てた。ありがとうな」
「師匠がいなければ私は野垂れ死んでいました。お互い様ですよ」
「そうか……そうだな!」
「セシリアさん達が待っています。早く街に帰りましょう!」
「ああ! さっさと帰って、飯食って寝るか!」
魔王を倒した俺達は、魔王城をすぐに引き上げて帰宅を始めた。
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