第37話 謁見

「この扉をくぐれば玉座の間でございます。決して王様に失礼の無いように」


「OK、OK、わかってる!」

  

 俺はバタンという音を立てながら勢いよく扉を開く。そしてポーズをとって大声で叫んだ。


「ダンテ・ウィリアムズ、ただいま参上!」


「ついでにジェシカ・エリオットも参上です!」


 決まったぜ。これは最高に格好良い入場だろう。クロウリーがめちゃめちゃ渋い顔をしてるけど多分気のせいだな。

 

「ハロー、こんにちは」


 俺が玉座の間に入るも玉座には誰も座っていない。わざわざ呼び出した癖に王様は不在なのか?

 その代わりに、髪も髭も真っ白な変な爺さんが挨拶をしてきた。城の使用人か何かかな?

 それにしても年をとりすぎている。こんなんでちゃんと働けるのかな。


「お二人共、王様が挨拶しているのに無視ですか!?」


「え、この人が王様? 玉座に座っていないけど」


「そりゃあ、ずっと座ってたら健康に良くないし立ち上がることもあるでしょう!」

 

 そう言われてみれば、確かにその通りだな。王様だって四六時中玉座に座っているわけでもないか。でもこの人の場合、玉座に座っていたとしても王様と見抜けなかった可能性あるな。


「フォッフォッフォ。王の風格が無くてすまんのう」


「あっ……いや、そんなことは決して……」


 思っちゃってたんだよな〜。非常に失礼だけど、その辺にいるただの老人にしか見えないんだよ。


「別に良いんじゃよ。ワシ自身も王っぽくないと思ってるから」


「え、そうなんすか?」


「偉大なのは我が父であって、ワシは何も成し遂げられておらん。父と同じ『佐藤健一』という名を名乗っておるが、ワシには父と同じような立派な統治者にはなれんよ」


 何て反応して良いかわからんが、王様でも悩むことってあるんだな。そう考えると王様も俺達と同じ一人の人間なんだって思えて、より身近に感じられる。


「王様も大変なんですね」


「君は確かジェシカ君だったかな? 君も偉大な父親を持って大変じゃないかい?」


「私のお父さんを知っているんですか!?」


「ああ、知っているとも。ワシの年の離れた異母弟でな、この国の窮地を何度も救ってくれたんじゃ」


「へえ〜、お父さんって王族だったんですか。初めて知りました」


「お前、自分の父親の出自も知らなかったのかよ!」


「フォッフォッフォ。我が父が死んでから混乱に陥ったこの国が、ある程度安定してきた頃、弟は突然城を出て行ったんじゃよ。これからは自由に生きたいとな。王族であることを知られれば色々と面倒だから、家族にも隠していたのであろうな」


 なるほどな。きっと、この国をずっと支え続けて疲れてしまったのだろう。人知れずひっそりと暮らしたいという気持ちはよくわかるぜ。


「私、実は王様の姪っ子だったんですね。師匠、今日から私のことをジェシカ姫と呼んでください!」


「よっ! ジェシカ姫!」


「照れちゃうのでやめてください!」


 いや、どっちだよ……

 それにしてもジェシカが王族だったとはな。驚き過ぎて逆に冷静になったわ。

 そういえば、俺ってジェシカのことをかなり雑に扱っていたな。借金の連帯保証人にしようとしたり、暑い日に団扇であおがせたり、背中や腰のマッサージをさせたり。平民が王族にこんなことさせたら相当ヤバいよな。どうか王様にはバレませんように。


「ジェシカ君や、お父さんは元気かのう? 久しぶりに会ってみたいものじゃ」


「お父さんは私が十三歳の時に死にました。つい最近、お母さんも死んでしまったので今は独り身です」


「な、なんと……」


 王は顔を真っ青にして狼狽えている。何年も連絡がとれなかった弟が死んでいたなんて悲しいよな。だがそれ以上にジェシカが不憫でならない。若くして両親を亡くして本当に辛かっただろう。俺も父さんが死んだ時の絶望感は今でも忘れられない。


「そんなに小さいのに独り身はきつかろう。もし良かったら、この城に住まぬか? お主は大切なワシの身内じゃ。丁重に扱おう」


 なかなか良い提案じゃないか。俺と庶民的な暮らしをするより城で豪華な生活を送る方がこいつにとって幸せに決まっている。仮にもこの国のお姫様なんだから。


「ありがたい話だけど、お断りします!」


「ほほう?」


「え、何で断っちゃうんだよ! お前、ニート暮らしが大好きなんだろ? 城でなら好き放題ニートできるぞ!」


「どんなに豪華な暮らしよりも、あの街で師匠や皆と馬鹿なことして過ごす方が楽しいです!」


 少しウルッときちゃったじゃねえか。あんまり感動するようなことを言うなよ。

 こいつはちゃんと俺のことを大事に思ってくれていたんだな。


「なるほど、よくわかった。ダンテ君、お主は相当好かれているようじゃな」


「えへへ……そうっすかね?」


「これからも、ワシの姪のことをよろしく頼むぞ」


「は、はい!」


 どうしよう、王様からお姫様を託されちゃったよ。これからはもっと大切に扱わないとな。とりあえず、こき使うのはもうやめよう。


「それではダンテ君、そろそろ本題といこうか」


 そうだった。俺は何らかの用があってここに呼び出されたんだった。ジェシカの正体が衝撃過ぎて完全に忘れてたよ。


「お主は魔王軍の幹部を二人も討伐してくれたのじゃったな?」


「はい、そうです。煉獄のインフェルノと漆黒のダークネスはこの俺が成敗しました!」


「ならば褒美を与えよう」


 よっしゃ、褒美だ! 魔王軍の幹部を倒して人類の危機を救ったんだからな、これはかなりの報酬が期待できそうだ。

 一億かな? 十億かな? 一生、遊んで暮らすぞ! ジェシカにも王族と変わらない生活をさせてやれる! あとついでにセシリアに生活費を納められる。


「ダンテ・ウィリアムズに『大納言』の官職を与えよう」


「大納言? なんすか、それ?」


「ワシもよくわからぬが、父のいた世界では大納言はかなり偉い人がつく官職だったらしい」


 自分もよくわからないで官職を与えてるんかい。随分と適当な王様だな。

 だが官職を得たということは上級国民ってことなのか? それなら嬉しいな。


「大納言になるとどんな特権があるんですか? 例えば国の政治に口を出せたりだとか……」


「いや、選挙で決められた議員しか駄目だね」


「それなら、お金がたくさん貰えたりは……」


「そういうのも無いね」


「じゃあどんな特権が?」


「う〜ん……友達に自慢できるとか?」


 それだけかよ! 命を賭けて戦った結果得た物が、マウントを取るためだけの官職とはな。こんなの割に合わないぜ。


「え、え〜っと……官職ありがとうございます。それじゃあ帰りますね」


「あ〜、待って待って! もう一つ用件があるのじゃよ」


「何でしょう?」


 どうせろくなことじゃないんだろうな。まあ、適当に耳を傾けてやるか。


「お主に魔王を倒してほしいんだよね」

 

「え? 無理ですって!」


「今のところ魔王軍幹部の討伐に成功しているのが、お主しかいないんじゃ。だからこの仕事はお主にしか頼めぬ」


 おいおい、マジかよ。とんでもない仕事を押しつけてくれるな、王様よ。


「でも、俺って弱いですし、武器もないですし」


「大丈夫、戦うのに必要な物は全てワシが用意しよう。全身黄金装備で固めても良いぞ」


「いや〜、でも……」


「魔王を倒した暁には何でも欲しい物をやろう」


「何でも?」


「ああ、何でもじゃ。ワシにあげられるものならな」


「わかりましたよ。やりますよ」


 王様がここまで頼みこんでるんだ。断るわけにはいかないな。

 それに魔王軍がいる限り平和な生活は送れない。この前みたいに街が襲撃されるのはもう御免だ。


「そうと決まったら魔王軍との戦闘に備えて修行してきますよ」


「頑張っておくれよ! この国の命運はお主にかかっておる!」  


 修行する場所のあてならある。あの森の洋館だ。魔女さんは強くて優しいから俺の修行にもつきあってくれるだろう。

 俺達は城を後にすると森の洋館を目指すことにした。

 あっ、でもその前に都を観光して行こうっと。

 

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