第36話 初めての都
「こちらが極秘の交通手段になります」
「おいおい、ドラゴンじゃねえか」
「こちらはジェットドラゴン、この世界に存在するあらゆる生命体の中で最も速いモンスターです」
「ジェットドラゴンって、あのジェットドラゴン?」
「おやおや、ご存知でしたか」
そりゃあ知っていますとも。学校の生物の授業で必ず習うもん。
ジェットドラゴン幻のモンスターと呼ばれており、世界に七体しか存在しない。凶暴で人間には懐かないというが、この男は完全に手懐けているようだ。
多分、こいつを用意するのに膨大な時と金をかけたんだろうな。国家の力ってすごい。
「それでは背中に跨がってください」
「こいつってめちゃめちゃ速いんだろ? 振り落とされたりしないのか?」
「はい。ですから、全力でしがみついてください」
「おいおい、そんなの無理だろ。冗談きついぜ」
「はい。冗談です」
冗談なんかい! こいつめっちゃ固そうな雰囲気だったけど冗談とか言うんだな。逆に親近感が湧いてきたわ。
「こちらのシートベルトを着用してください」
「了解」
俺とジェシカはドラゴンの背中に乗り、シートベルトを締める。
めっちゃペラペラなベルトだけど大丈夫だよな? 途中でプッツンして空中から投げ出されたりしないよな?
不安で仕方が無いが、国のお抱えの乗り物だ。安全だと信じよう。
「それでは飛びます!」
フワッとした浮遊感が体を伝う。これが空を飛ぶという感覚なのか。何だか不思議な感じがするな。高所恐怖症の人にとっては地獄でしかないだろうが。
「し、師匠! 怖いです! 死にます!」
お前、高所恐怖症だったんかい。生まれて初めて空を飛ぶが俺は全然怖くないぜ。むしろ気持ち良いくらいだ。
「猛スピードで飛んでいるのに、ちゃんと安定しているな。ドラゴンの操縦が上手いね。あんた何者なんだ?」
「申し遅れました。私、内大臣のクロウリーでございます。幼い頃から家でドラゴンを飼っていたので操縦には慣れているのです」
「内大臣!?」
内大臣っていうのがどれだけ偉いのか知らんが、「大臣」ってつくくらいだからこの国の上層部なのは間違い無いだろう。
そんなエリートが直々に迎えに来るなんて、俺は相当なVIP待遇をされているようだ。ようやく俺の実力が認められる日が来たか。
上機嫌になった俺は上空で鼻歌を歌い始めるのだった。
「間もなく着陸致します」
「もう都に着いたのか? 流石、幻のドラゴンは速いな」
「それでは運賃の方ですが十万ゴールドになります」
「は? 金とるのか?」
「冗談ですよ」
「冗談かいな! マジで払いそうになっちまったよ!」
そんな会話をしている間にドラゴンが着陸し、俺は生まれて初めて都の地に降り立った。俺の故郷が石造りの街なのに対して、都は木造建築が多い。同じ国のはずなのにまるで別世界だ。
「師匠、見てください! あそこに岩石の巨人がいます!」
「あー、あれは大仏っていうらしいぞ。異世界人は皆、あれを拝むそうだ」
「異世界の事情に詳しいのですね、ダンテさん」
「異世界人の知り合いがいてな、そいつが色々と教えてくれるんだ。それにしても都には異世界の物が多いな。寺やら神社やら」
「先代の王様が異世界人でして、自らの故郷を忘れないようにするため都をこのように改造したのです」
へー、先代の王様は異世界人だったのか。確か彼は元々は平民で、悪政を敷いていた前王権を倒して王の座についたんだよな。前世でも相当優秀な人間だったのだろう。
「興味深い建造物が多いな。特にあの金ピカな寺とか」
「後で好きなだけ観光して良いので、まずは城に来ていただけますか?」
「了解。ここから城まではどれくらいだ?」
「すぐそこです。ほら、あれ」
クロウリーが指さしたその先には確かに立派な城がある。しかし、何か違和感があるな。街並みに合ってないというか、明らかに浮いている。
「城は異世界風じゃないんだな」
「いえ、城も異世界の建造物をモデルにしていますよ」
「あれ? 異世界の城って、石垣とかシャチホコとかがあるやつじゃなかったっけ?」
「そういうの以外にも色々なタイプがあるらしいですよ。この城は異世界の『シンデレラ城』という城がモチーフになっています」
へー、城の世界も奥が深いんだなあ。今度、図書館に行って異世界の文化についてもっと深く学んでみよう。せっかく視力が回復して本が読めるようになったんだ。たくさんの本を読んで、心を満たすぞ。
「さて、着きましたね。それでは王様に謁見するために玉座の間へご案内致します」
「玉座の間か。一般人が一生行けないような場所に、この俺が行けるんだな。ドキドキするぜ!」
「一週間に一度、『ワクワクお城ツア』ーをやっているので誰でも行けますよ」
そんな愉快なツアーをやってるのか。もっと厳かな場所だと思ってたんだがな。まあ、国民と王の距離が近いってのは良い事なのかもしれないね。
そんなことを考えながら、俺は玉座の間へと向かった。
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