第35話 念願

 漆黒のダークネスに勝利した俺達は、リュートの行きつけの酒場で派手な祝勝パーティーを開いた。最高に盛り上がって、超楽しかったぜ。ず〜っと、ぼっちだった俺にとって中の良い皆でパーティーをすることは永遠の憧れだったからな。  

 今回は特別にジェシカにも酒を飲ませてやった。この戦いに少なからず貢献してくれたからな。あいつ、思ってたより酒に強くてびっくりしたぜ。普段は眠り姫な癖に、何杯飲んでも酔っ払わないの。付き合って飲みまくってたこっちが先にダウンしちまったよ。

 

 そんなこんなで楽しい飲み会は夕暮れ時には終了した。午前から飲み続けていたから、もうかなりベロベロだ。

 その場で解散した後、俺はジェシカとセシリアを伴ってギルドにやって来た。

 昨日、漆黒のダークネスを倒したことでかなりの経験値を得られたはずなので、これからレベルを検査するのだ。そろそろ有用なスキルを覚えておきたいところだ。


「それで、俺のレベルはどうなってる?」


「レベル50ですね!」


「おー、すげえな! 敵を一匹葬っただけで一気に10レベルもアップしたのか」


「漆黒のダークネスは魔族の中でも最強格なので、得られる経験値も莫大なのでしょう」


「それで新しいスキルは覚えてるのか?」


「はい! まずはいつものように、ゴミスキルがいくつかと……」


 おいおい、冒険者をサポートする立場の受付嬢がゴミスキルとか言うなよ。遂にオブラートに包まなくなってきたな。


「一つだけ、すっごいスキルを覚えていますよ!」


「すっごいスキル?」


 どうせめちゃめちゃ使いにくいスキルなんだろうけど、まあ期待せずに聞いておこう。


「なんと……」


「なんと?」


「なんと……」


「なんと?」


「な! ん! と!」


「異常に溜めるな! 早く発表してくれよ!」


「わかりました。それでは発表します! ダンテさんが新たに手に入れたスキルは……」


 ドコドコドコとドラムを叩く音が聞こえる。そんな物どこに隠し持ってたんだよ。セシリアって基本真面目だけど、たまに俺以上にふざけるよな。


「心眼スキルです!」


「ん? 今、何て言った?」


「だから、心眼スキルです!」


「心眼スキルって、あの心眼スキル!?」


「そうです。あの心眼スキルです!」


 な、なんと……念願の心眼スキルが遂に手に入ったというのか。感動で震えと涙が止まらねえぜ。

 ここまでの道のりは長かった……俺はしみじみと今までの思い出を振り返る。


「早速使ってみてはいかがですか?」


「そうだな。心眼スキル発動!」


 精神を統一して強く念じると、心の中にポチャンと一滴の水が落ちたような音がする。次の瞬間、俺の目に光が差し込む。いや、正確には目ではなく心の目だ。

 どちらにせよ視界が回復したのだ。相変わらず役所っぽいギルド、そこに行き交うたくさんの冒険者達、様々な光景を俺は視覚的に認識することができる。「見える」ってなんて素晴らしいのだろう。


「師匠、私の顔見えますか?」


 そういえば心眼スキルを獲得したらジェシカの顔をじっくり見るなんて約束したっけな。今、思えば恥ずかしいことこの上ない。だが約束は約束だ。果たさせてもらうとしよう。

 

「こ、これは……」

  

 俺の目の前にとてつもない美少女が立っている。鮮やかな水色の髪の毛、キラキラと輝いた瞳、顔を構成する一つ一つのパーツが美しい。

 ただロリっぽいのが惜しいところだな。生憎、俺はロリコンじゃないんだ。普通に可愛いんだけどね。


「どうですか? 可愛さのあまり絶句してしまいましたか?」


 あっ、忘れてたけどジェシカだったわ。どんなに可愛くてもアホの子という事実は変わらない。一緒に冒険する中で絆は深まったけど妹みたいなポジションだから、こいつを恋愛対象としては見れないな。


「師匠、何か失礼なこと考えてません?」


「え? 気のせいだよ、気のせい!」


「なら良いのですが……」


 このような馬鹿な会話を続けていると、突然ギルドの扉がバタンと音を立てて勢いよく開かれた。


「ダンテ・ウィリアムズさん、いらっしゃいますか?」


 声の主の方を振り返ると、そこには装飾品で彩られた綺羅びやかな服を着た青年が立っていた。身なりや顔つきから高貴な身分であることが見て取れる。


「俺だけど、何か用か?」


「私は都よりやって参りました王の遣いです。この度は漆黒のダークネスの討伐、おめでとうございます!」


 相変わらず都の方々は情報が早いな。どこかで俺達のことを監視しているのだろうか。怖い怖い。


「手紙じゃなくて王様直属の部下が来るとはな。街を救ったこの俺に莫大な報酬でも与えに来たのか?」


「その事でございますが、至急城に来ていただくことは可能ですか?」


「え、今から?」


「はい。今すぐにお願いします」


「ここから城って馬車を全力で走らせても二、三日はかかるだろ。色々と旅の準備をしてから行きたいんだけど」


「そちらについては問題ありません。極秘の交通手段がありますので片道一時間で行けますよ」


 極秘の交通手段なんて物があるのか。都に情報が伝わるのが早いのはそのお陰なのだろうか。


「この街の外に用意しておりますので着いてきてください」


「はいよ」


「私も一緒に行きます!」


 俺とジェシカは使者の後ろを追いかけ、街の外へ向かった。

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