第38話 修行を終えて

「渾身の魔法を使ってみなさい」


「わかりました!」

 

 魔女から指示を受けた俺は呪文の詠唱を始める。練度が上がってきたからか詠唱は物凄い短時間で終わった。

 そして腹の底から、張り裂けそうになる程の大声で叫ぶ。


「フレイム!」


 俺の右手から発せられた炎が周囲のモンスターを焼き尽くし、一瞬のうちに灰に変えた。


「魔女さん、どうですか?」


「合格よ! 私から教えることはもう何も無いわ!」


「よっしゃー!」


「師匠、やりましたね!」


 魔女の元で修行を始めてから三ヶ月が経過した。魔女の教え方が上手いのと元々俺自身のポテンシャルが高かったお陰ですぐに魔法が上達した。レベルも70まで上昇し、上級冒険者の仲間入りだ。

 ただし修行はめちゃめちゃきつかったけどな。毎朝四時起きで森の端から端までランニング、その後三時間滝に打たれるなど、魔法の修行なのに何故か体力を鍛えさせられた。それでも魔力は確実に強くなっている。

 これで爆発スキルに頼らず、普通の賢者みたいな戦い方ができる。回復魔法も覚えたのでポーションの節約にもなるぜ。


「それじゃあ、魔王退治に行ってらっしゃい!」


「魔女さん、ありがとうございました!」


「私の名前はメアリーよ、覚えておいて」  


 三ヶ月間一緒に過ごして本名が初めて明かされた。魔女にもちゃんと名前ってあるんだね。人間なんだから当然か。


「ありがとうございました、メアリーさん! 魔王を倒したらまた会いにきますよ!」


「達者でね〜!」


 





 メアリーに別れを告げると、俺達は一旦街に戻った。魔王との戦いは確実に長くなるだろう。しばらく会えなくなるだろうから、街の皆に挨拶をしたい。


「おっ、あれはダンテじゃないかい?」


「本当だ! 久しぶりだな!」


 街に入るなり見知った二人が俺の元に駆け寄ってきた。  


「リュート、拓人、久しぶりだな!」


「もう修行は終わったのかい?」


「おう、これから魔王を倒しに行ってくるぜ!」


「僕達も一緒に行こうか?」


「お前が修行している間、俺も魔法の特訓をして魔法使いになれたぜ! 連れて行ってくれれば必ず役に立つ!」


「いや、お前達は残ってこの街を守っていてくれ。幹部が二人ここで倒されているんだ。魔王軍もこの街をマークしているはずだ」


「なるほどね。わかったよ、僕達はここに残ろう」


「この街のことは心配せずに思いっきり戦ってきやがれ!」


「おう!」


「じゃあ、僕達はクエストに行くからここでさよならだね」


 リュートと拓人は二人並んで街の外へ歩いて行った。俺がいない間にあいつらも仲良くなったんだな。拓人がこの世界で上手くやれているみたいで安心したよ。



   





「さて、次はセシリアさんのところですね」


「ああ、あいつにはかなり世話になったからな」


 久しぶりの街並みを目に焼き付けながら、セシリアの家へ向かった。


「ここですね」


「じゃあ入るか」


 合鍵を差し込みドアノブをひねる。扉が開くと懐かしいにおいが鼻に飛び込んでくる。実家みたいで妙に落ち着く。


「ただいま」


「ダンテさん! 帰ってきたんですね!」


 家に入るなり、リビングにいたセシリアが玄関に飛び込んで来る。

 一人で静かな生活を楽しんでいると思っていたけど、実は寂しかったのかな? すぐに魔王を倒して、また三人で平和に暮らせるようにしないとな。


「本当に久しぶりですね」


「すぐに魔王討伐へ出発しちまうけどな」


「あんなどうしようもなかったダンテさんが、今や世界の命運を背負って戦うヒーローになるなんて……」


「おいおい、馬鹿にしてんのか?」


「べ、べつにそういうわけじゃ……」


「あれ? もしかして泣いてる?」


「泣いてません! これは目汁です!」


 何だよ、目汁って……

 とりあえず背中をポンポンしてあげよう。


「必ず魔王を倒して平和を取り戻してくださいね」


「任せとけ! 報酬をたんまりもらって、お前に今までの恩を返すよ」


「でも死にそうになったら逃げ帰ってきても良いですから」


「何だそりゃ」


「とにかく無事に帰ってきてください!」


「ああ、わかったよ。無事に帰ったら、また三人で楽しく暮らそうな」


「はい!」


「それじゃあ、行ってくる!」


「行ってらっしゃ~い!」


 セシリアへの挨拶を終えた俺達は魔王討伐に向かうべく、街の外に出た。









「さて、まずは都に行くか。隣町から都への直通馬車が出てるはずだ」


「都に行ってどうするんです?」


「ジェットドラゴンを借りるんだよ。徒歩で冒険したら何十年かかるかわからんからな」


「なるほど。速いドラゴンさんでビュンビュン飛んで旅をするんですね?」


「ああ、そうだ。ほら、出発するぞ」


「はい!」


「ダンテさん、ジェシカさん!」


 俺達が歩き出したと同時に背後から何者かに話しかけられた。慌てて振り返ると、そこにはジェットドラゴンに跨がったクロウリーがいた。


「ちょうど良かった! 俺達も乗せてくれないか?」


「もちろんそのつもりで駆けつけました」

 

「え? この日に帰ってくることは誰にも言っていないはずだが」


「ダンテさんのポテンシャルや成長速度を計算したところ、今日修行が終わるという結果が導き出されたのです」


 すっげえ計算能力だな。この国は実力主義だからこのくらい頭良くないと権力の中枢にはいられないんだろうな。

 

「それでは出発するので乗ってください」


「はいよ」


「ここから魔王城まで、およそ二時間のフライトになります」


「え、ここから魔王城まで直行なの!?」


「はい、直行です」


「魔王城の場所わかってんのかよ」


「私がジェットドラゴンで世界中を飛び回って見つけました」


 頭が良いだけじゃなくてアクティブなんだな。もうお前が魔王を倒しに行けよ。


「それでは離陸します。しっかり捕まっていてくださいね」


 ドラゴンが飛び立ち、俺達は魔王城へ向かった。

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