第29話 森の奥の魔女

 俺達は街からしばらく歩いた所に位置する森の中にいる。この辺は雑魚モンスターしかいないお陰で、爆発スキルを使うまでもなくサクサク進める。魔王軍の幹部が倒されたため、部下のモンスター達もこの一帯からいなくなった。俺のSランクスキルに恐れをなしたのだろう。


「地図によるとこの辺ですね……あっ、ありました!」


「魔女の住む森の洋館……気合入れて行くぞ!」


「はい!」


 ジェシカは古びたドアノブに手をかけ、ゆっくりと洋館の扉を開く。ミシミシという扉が軋む音がとても耳障りだ。


「外はボロっちいのに中はとっても綺麗です! 豪華なシャンデリアや芸術的な絵画がたくさんあります!」


 確かにあんまり古びた感じはしないな。カーペットはふかふかだし、異臭もしない。こんな辛気臭い森の奥にあるとは思えないような建物だ。


「ちょっくら探索してみましょう!」


「おい、ちょっと待て! 危険だから一緒に行動するぞ!」


「はい!」


 ジェシカは俺の手を引いてズンズンと進んで行く。ある程度目の見えない生活に慣れたといっても、狭い建物を一人で歩くのはまだまだ危険だからな。こういう時に相棒がいてくれるとなかなか助かる。これで戦闘能力も高ければ完璧なんだがな……


「師匠、立派な壺です! パリーン!」 


「おい、まさかこの音……お前、壺を割ったりしてないよな?」


「割りましたよ。壺があったら割る、タンスがあったら中身を漁る、それがこの世界の常識じゃないですか!」


「そんな常識ねーよ、アホ!」


「あっ、ポーション発見!」


「アイテム出てくるのかよ……破片が飛び散って危ないから、もうむやみに破壊するなよ」


「はい、はーい!」


 まったく……本当にわかってるのか? こいつは突拍子もない行動をとるから油断ならないな。


「あ、後ろ! 危ないです!」


「なっ!?」


 俺はとっさのステップで横に跳ぶ。着地した直後、先程まで俺がいた地点に大きな衝撃が走る。ジェシカの忠告が無ければ死んでいただろう。

 俺がアイマスクを外すと、そこには石像が立っていた。攻撃をしかけてきたのはこいつだろう。

 視界に入ったことでスキルが発動し、石像は粉々に弾け飛んだ。


「師匠、無事で良かったです!」


「索敵スキルを発動させながら歩いていたのに反応が無かったぞ」


「索敵スキルは無機物には反応しないんですよ。あれはモンスターじゃなくて、侵入者自動迎撃システムだと思います」


 はえ〜、そんなハイテクなシステムがあるのか。この家の家主はけっこう頭が良い奴なのかもしれないな。


「他にも色々な罠があると思うので、気をつけて進みましょう!」


「おう!」


 俺達は警戒しながら館の奥へと進んで行く。その道中で先程の動く石像や、戦闘ロボットなど様々な迎撃システムとの戦闘を繰り広げる。魔女の家っていう割には、やけに機械的な奴らだな。魔法動物みたいなのが襲いかかってくるっていうのを想像してたんだけど。

 

「ここ階段ですよ。気をつけてください」


「おっ、サンキュー」


 階段を上り、洋館の二階にたどり着いた。一階とは打って変わって、禍々しい空気がただよっている。


「なあ、変な音が聞こえないか?」


「いや、聞こえませんけど?」


「耳をよ〜く澄ましてみろよ」


「どれどれ……あ〜、うっすらと聞こえますね」


 こいつ耳悪いな。いや、俺が良過ぎるのか? 目が見えないから聴覚が超アップしたんだろうな。


「あっちの方から聞こえてくるっぽいな」


「あそこの部屋ですかね。入ってみましょうか?」


「ああ、警戒しながら行くぞ」


「じゃあ師匠を盾にしながら進みますね!」


 ジェシカはそそくさと俺の後ろに回り、肩を掴む。この俺様を盾にするとは何て無礼なことを。まあ仕方ないから許してやろう。こいつは耐久ペラッペラだから、不意打ちを喰らって死なれても困るしな。

 俺は恐る恐る扉を開ける。すると、この館の雰囲気にそぐわない陽気な音楽が耳に飛び込んで来た。


「この音は……ピアノか?」


「でも誰も弾いてないですよ。ひとりでにピアノの鍵盤が上下して音が奏でられています!」


「不気味だな……」


「音楽に合わせて歌いましょう! ありったけの夢をかき集め〜!」


 お前、よくこんな所で歌う気になれるな。度胸があるのか馬鹿なのか。

 そんなことを考えていると、突如俺のこめかみがピクリとうずいた。


「おい、索敵スキルが反応した! 気をつけろ!」


「え? でもこの部屋にはピアノしかありませんよ」


「じゃあそのピアノがモンスターなんだよ! 人食いピアノとかそんな感じだろ」


「モンスター図鑑は一通り読み漁りましたが、人食いピアノなんてモンスターはいないはずですよ」


「とにかくそのピアノから離れろ!」


「は、はい!」


 ジェシカは慌てて後ずさりをしてピアノとの距離をとった。俺はいつでもアイマスクを外せるようにして臨戦態勢をとる。


「オーホッホッホ! 私の正体を見抜くとはなかなかやるわね!」


「ぎゃぁー!? ピアノが蓋をパカパカさせて喋ってます!」


「やはりな。お前はピアノ型モンスターなんだろ!」


「惜しいけど、ちょっと違うわね」


「ピアノが美しいお姉さんになりました! おっぱいでかい! おっぱい超でかい!」


 

「ちょっと、おっぱいって連呼しないで。セクハラで訴えるわよ?」


「あっ、ごめんなさい……」


 つまりこの館の主人である魔女がピアノに化けていたってことか。こいつをぶっ倒してさっさと帰るとしますか。

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