第28話 英雄になれるのか?

「おい、おかしいだろ! 何で誰も来ないんだよ!」


「ちゃんと街中の人達に、招待状は配っておいたはずなんですけどねえ……」


 俺は怒りのあまり机に両手を打ちつける。

 煉獄のインフェルノ討伐から数日が経った。今日は、魔王軍幹部を撃破した祝勝パーティー兼借金帳消しパーティーを企画していた。しかし、パーティー開始時間を一時間過ぎても誰も来ない。


「本当に配ったんだろうな? 面倒くさいからその辺に捨てたりしてないよな?」


「捨ててませんよ! ちょっとしか」


「ちょっとは捨てたんかい!」


「まったく、うるさいですね……私は仕事で疲れているんですよ。休日の朝くらい静かにできないんですか?」


 俺とジェシカが騒いでいると、セシリアが不機嫌そうに起きてきた。ちょうど良い、こいつにも愚痴ってやろう。


「なあ、今日はここで焼肉パーティーをしようと思ったのに誰も来ないんだけど、いったいどうしてなんだ!?」


「私の家で勝手に焼肉パーティーしようとしてたんですか!? 部屋の中が臭くなるからやめてください!」


「そんなことよりさ、この惨状はどういうことなんだよ!」


「ダンテさんが嫌われてるからじゃないですか?」


「確かに前までは嫌われ者だったけどよ、今はもう違うだろ。俺は街の危機を救った英雄だぞ。人気者に決まってるだろ!」


「はぁ〜、そんなわけないじゃないですか……」


 何だ、そのクソデカ溜め息は。俺に心底呆れたみたいな態度を取りやがって。もっと救世主様を敬おうとは思わないのかね。


「煉獄のインフェルノが討伐された後、ギルド本部の指示で様々な調査をしました。それでわかったことがあるのですが、そもそも魔王軍が攻めてきたのはあなたのせいですよね?」


「は?」


「煉獄のインフェルノの目的はSランクスキル保持者の殺害、つまりダンテさんを狙って街を襲撃しました」


「ああ、そうだな」


「そしてダンテさんを差し出せば他の人は見逃すとも言っていたそうですね』」


「確かに言ってたけど、それがどうかしたか?」


「つまりあなたを狙ってやって来た敵をあなたが退治した。それって単なる自己防衛で街を救ったことにはなりませんよね」


 言われてみればそうだな。ギルド本部から感謝状をもらって舞い上がってたけど、よくよく考えてみたらセシリアの言うことが正しいわ。


「むしろあなたの存在が魔王軍を呼び寄せ、この街を危機に晒したとも考えられませんか?」


「……ジェシカ、もう一眠りしようぜ」


「ですね!」


 パーティーが中止になっちまったせいで、全身の力が抜けた。そして莫大な倦怠感が俺の体を襲ってきた。こんな時は不貞寝するに限るべ。


「お待ちなさい!」


 セシリアは、部屋に戻ろうとする俺の首根っこを強い力で捕まえた。思ってたよりも怪力でけっこう痛い。


「急に何だよ?」


「そろそろクエストに行ったらどうですか? インフェルノを倒してから、ずっと家でダラダラしてますよね」


「そりゃ、借金が帳消しになったんだしもう働く意味も無いじゃん。後はお前の金で一生ダラダラ暮らすつもりだぞ。なあ、ジェシカ?」 


「はい!」


「駄目です、駄目です、絶対に認めませーん! せめて自分の生活費くらいは自分で稼いでください!」


 この調子だとまたいつもみたいにお説教タイムに突入するな。ここは従う姿勢を見せておこう。


「わかった、わかった。クエスト行くよ」


「じゃあ、さっさと行ってください!」


「へいへ〜い」


 俺とジェシカは冒険の支度を済ませると、ギルドへ向かった。








「それじゃあ、このクエストで」


「森の洋館に住む魔女退治ですね。お気をつけていってらっしゃいませ!」


 ギルドに到着した俺達は一番報酬の高いクエストを受注した。難易度は高そうだが、もし勝てなそうだったら逃げれば良い。借金を返さないといけないというプレッシャーから解放されたから、気楽にレジャー感覚でクエストを受けられるぜ。


「それじゃあ師匠、出発しましょう!」


「おう!」


「お、ダンテじゃないか!」


 クエストに出発しようとする俺達を誰かが呼び止める。この聞き馴染みのある声は……


「リュートか?」


「うん、そうだよ!」


 やっぱりな。この爽やかボイスは一度聞いたら忘れられないぜ。


「お前も今からクエストに行くのか?」

 

「違うよ、僕はたった今帰ってきたんだ。昨日の早朝に出発して徹夜でクエストをこなしていたんだ」


「それは大変だったな」


「とりあえず帰って、夜まで眠ることにするよ」


「ああ、ゆっくり休めよ!」


「ところで、今日の夜の予定は空いてるかい?」


「そうだな。夜までには街に帰ってくる予定だ」


「それなら飲みに行かないかい? 良い店知ってるんだよ」


「おお、行く行く!」


「やったあ! じゃあクエスト頑張って来てね!」


「ああ!」


 会話を一通り終えるとリュートはカウンターへ向かった。クエストの報告をしに行くのだろう。あいつ程の凄腕冒険者ならかなりの金額を稼いでいるんだろうな。


「師匠、いつの間にあの人と仲良くなったんですか?」


「最初はいけ好かない野郎だと思ってたんだけど、話してみると案外良い奴だったんだよ」


「真の陽キャはどんな相手にも優しいって言いますもんね」


「まるで俺が陰キャみたいな物言いだな」


「師匠は陽キャでも陰キャでもなくてキチガ……」


「おっとそこまでだ。それより先は放送禁止用語だから絶対言うなよ」


「あっ、はい……」


 ジェシカって実は心の中で俺を馬鹿にしてたのか? いや、そんなことは無いと信じたい。皆が俺を見下そうとも、愛弟子だけは尊敬してくれているはずだ!


「まあ良い。久しぶりのクエストに出発するぞ!」


「えいえいおー!」

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